@AZUSACHKA 's note

本の感想など。

【読書】上西晴治『十勝平野(上)』(1993年、筑摩書房)感想

 

十勝平野(上)

十勝平野(上)

 

 

明治・大正・昭和にかけての十勝・浦幌を舞台に、アイヌの親子三代の生活と戦いを描いた小説。下巻は図書館の返却期限に間に合わなかったのでギブアップ、上巻だけ読んだ。(下巻を読むかどうかは未定…)

漫画『ゴールデンカムイ』を読んでるのと朝ドラ『なつぞら』を見ているのとで興味があって手に取ってみたんだけど、「北海道を舞台にしたレ・ミゼラブル」という感じの悲惨な話が続くので読んでてしんどかったです。でも北海道開拓の裏にはこういったアイヌ差別があったことは絶対に忘れてはいけない歴史なので、『なつぞら』でウキウキしてる今だからこそ読むには良いタイミングだったのかもしれない。*1

それに、アイヌの生活が細やかに描かれているので、そのへんは読んでてとても興味深かった。

 

主人公のオコシップ(アイヌ男性)は幼い頃に父が「クンチ(強制連行)」によって国後に連れられてしまい(1860年)、貧しい生活を送っていた。それでもオコシップの若い頃は猟によってなんとか生計を保っていたが、40歳を過ぎた頃には浦幌周辺の和人の開墾が進んだことにより野生動物の数が減り、猟に頼った生活も難しくなっていた。1892年、旧土人保護法によって政府から土地を与えられるものの、そこは水害の多い土地で、開墾には大変な苦労が必要だった。アイヌとしての誇りを横に置き、生きるために畑を耕すものの、水害の多さに農業は諦めて林業に従事することになった。しかしその林業においても………というのが上巻のおおまかなストーリー。

 

まず文章がしんどい。まるでアイヌ語で書かれた小説を日本語に翻訳したかのような文章なんだよね。もちろんこれは日本語で書かれた小説なのでそれはありえないんだけど、「分からない」と感じる様々な部分が翻訳物の小説を読んでる時に感じるものなんだよね。例えば以下のような感じ。

  • 文章を追っているはずなのに読んでるうちにいつのまにかよく分からなくなってくる(日本語だと思ってさらっと読んでると頭に入っていかない、外国語の小説だと思って集中して読まないと理解しにくい)
  • 登場人物(アイヌ)の笑いどころが理解できないシーンがある
  • 登場するアイヌ語が固有名詞なのか一般名詞なのかすら理解できない、名前を見ただけでは男なのか女なのかすら分からない、それにより登場人物の名前も覚えにくい(救いは、アイヌの名前には名字が無いくらい…)
  • にもかかわらず登場人物が多い

でもいくら日本語で書かれたものとはいえ、アイヌの物語を和人であるわたしが簡単に理解できるなんて思うのがそもそも間違ってるんだとは思う。日本語の小説ではなくアイヌ語の小説の翻訳だと思って読むものなのかもしれない。

 

もう一つしんどかったのがストーリー。冒頭にも少し書いたけど、基本的に和人に虐げられるアイヌの話なので登場するアイヌたちがみんな悲惨な生活を送っていて、読んでるだけでしんどい。しんどい生活の中で子どもが生まれてささやかな幸せを噛み締める〜みたいなのもない。ちょっと上手くいくかなと思ったらあっという間にダメになる、その繰り返し。実際その通りなんだろうけど、小説で読むにはかなりエネルギーが要るかな…勉強だと思って取り組まないと向き合えないかも。

下巻ではオコシップの息子や孫?が主人公になるみたいだけど、前向きなエンディングになったり何か救いがあったりはするのかなぁ…でもこのあとの日本とアイヌの歴史を思うと幸せになる可能性は低そう…

 

ゴールデンカムイ』の作者は取材で会ったアイヌの方から「可哀想なアイヌなんてもう描かなくていい。強いアイヌを描いてくれ」と言われたことがあるらしいんだけど*2、なるほど可哀想なアイヌというのはこんな描写かぁ…と感じてしまった。(でも強いアイヌばかりが描かれてもアイヌの歴史をきちんと伝えることはできないので、どっちのアイヌ像も必要なんだとは思う。)

 

感想はここまで。

 

 

実は人名が難しすぎてメモを取りながら読んでました。この作品はWikipediaになってなくて、作中の登場人物一覧みたいなものがどこにもないので、せっかくだしここに自分でメモした内容を載せておきます。

第一部

  • オコシップ:主人公。アイヌとしての暮らしを守ろうとして、それを壊す和人や和人にこびるアイヌを恨んでいる。
  • レウカ:オコシップの父。オコシップが7歳のときにクンチで国後に連行される。
  • エシリ:オコシップの母
  • チキナン、ナウフツ、カロナ:オコシップの妹
  • サクサン:レウカの弟
  • ウロナイ:サクサンの妻
  • テツナ:サクサンの長男
  • トラリヤ:サクサンの次男
  • モンスパ:サクサンの娘
  • エンカリ:サクサンの末娘
  • ヤエケ:松前藩が支配していた漁場で小使いをしていた役付きアイヌ。兄は首長オニシャイン。
  • サウシ:ヤエケの妻
  • ヌイタ:ヤエケの娘
  • イホレアン:首長オコシャインの息子
  • ハルアン婆:主人公と同じコタンに住むおばあさん。よくアイヌの詩を歌っている。
  • ヘンケ:オコシップの住むコタンの男
  • シテパ:ヘンケの息子
  • カイヨ:オコシップの住むコタンの男
  • リイミ:カイヨの妻
  • サケム:カイヨの息子

第二部

  • 周吉:オコシップの息子。和名をつけられている。
  • フミ:テツナの妻。和人
  • トラエ:ヘンケの息子
  • トレペ:ヘンケの妻

*1:泰樹さんは作中の西田徳太郎のような嫌な奴じゃないけど、きれいごとだけじゃ開拓なんてできなかったとは言ってたし…

*2:http://konomanga.jp/interview/51952-2/2

【読書】三浦綾子『天北原野』(新潮社、1985年)感想

 

天北原野(上) (新潮文庫)

天北原野(上) (新潮文庫)

 

 

先月、旭川へ旅行して興味を持った三浦綾子の小説。すごく面白かったです。

1924年〜戦後の北海道・サロベツ原野*1と日本統治時代の樺太(サハリン)が舞台の話。基本的なストーリーは男女の恋愛だけど、作中で20年が経過するので、最終的には恋愛だけではなく人間を描いていると思う。

 

人間模様だけでなく昔の北海道やサハリンの暮らしぶりが細やかに描かれていたのも面白かった。個人的にサハリンは旅行したことがある場所なので、ものすごく景気が良かったという日本時代*2を具体的にイメージできる小説に出会えて良かった。稚内を出て8時間も船に揺られて大泊(コルサコフ)に着いてまたさらに電車に乗ると豊原(ユジノサハリンスク)に着いて…そこからまたさらに北に北にサハリンは延びていて…みたいな距離感と生活感が伝わって良かった。サハリンへ旅行するときは「昔は日本人もたくさん住んでいた場所、当時の日本にとっては北の果て」みたいな貧相なイメージしかなかったので、行く前に読んでおきたかった本だなあ…

ちなみにこの小説の描写によると冬のサハリンの定時は10時〜15時らしいですよ。緯度が高いので、15時には仕事を終えないと暗くなっちゃうんだって。その労働時間で景気も良いなんて天国じゃない?

先日札幌へ帰省した際に開拓の村*3へ行ったのだけど、そこにも展示されていた林業従事者のための飯場(宿泊小屋)や鰊御殿(漁業従事者のための宿泊小屋兼親方?の屋敷)なんかも出てきて、しかも描写がされる間取りが開拓村にあった建物そっくりで、個人的にタイムリーなものだったので面白かった。

 

作者の三浦綾子はクリスチャンで、キリスト教の考え方が土台になっているので、そのへんが合わない人には合わないかも…わたしはキリスト教に興味があるので面白かった。文体はとっても読みやすかったのでさくさく読めた。

 

以下はネタバレありの読んだことある人向けの感想。

 

 

孝介の「一度も人を傷付けずに生きる人間などいない」という言葉にぎゅっと集約されている話だと思う。物語の中心となる貴乃・孝介・完治・あき子はみんな誰かを傷付けたんだよね。

完治は3人を、孝介はあき子を傷付けた。

貴乃とあき子は何もしていないのだけど、二人とも自分の存在そのものがお互いを傷付けたと言えると思う。あき子は兄・完治の妹であるということで罪を感じていたし、貴乃は一番何にもしていない(あき子の目の前であてつけるように孝介と親しくしたことすらない)けど、孝介が貴乃を愛していることであき子が傷付いたんだから貴乃は無関係ではない。自分が傷付けようと思っていたかどうかにかかわらず、生きてるだけで誰かを傷付けるんだよね。だから謙虚に生きなきゃというわけではなく、ものすごく控えめで自分を抑えて抑えて生きていた貴乃ですら結果的にあき子を傷付けてしまったのだから(あき子さ貴乃を恨んではいないだろうけど)、謙虚に生きればいいという話でもない気がする。

 

キリスト教の考え方で私が一番納得いかないのが原罪だったんだけど(なんでわたし自身がルール違反をしたわけでもないのにアダムとイブが知恵の実を食べたからって人類罪深いって言われなきゃならないんだと)、アダムとイブなんて言われるとよく分からないけど、生きてるだけで人は誰かを傷付けていると言われたらなんとなく納得できる。それは本当にそうだと思うから。

 

敗戦後の引き揚げは本当に痛ましかった。でもまだそのあたり、戦争に関する部分はまだちょっと感想として消化しきれない。

でも反抗期の頃はすごく嫌なやつだった加津夫が最終的には好青年に成長してくれててちょっと救われた。大人になったら完治には似なかったようで安心した。悲しいこともたくさんあるし、生きてるだけで誰かを傷付けるというのは気分が重くなる話だけど、生きてれば悪いことだけじゃなく良いこともあるもんだよね。

 

*1:稚内の近くで、作中では「ハマベツ」という名前になっている

*2:今でもサハリンは天然ガスマネーで潤ってる土地です

*3:開拓時代の北海道の建物を移築・展示している博物館

【漫画】草凪みずほ『暁のヨナ』第29巻(2019年4月、白泉社)

 

暁のヨナ 29 (花とゆめCOMICS)

暁のヨナ 29 (花とゆめCOMICS)

 

 延々と話を長引かせすぎ、またヨナがさらわれた、というコメントをアマゾンのレビューとかで見かけたけれど、好きな漫画は終わってほしくないのでわたしは全然気にならない。

火の部族は戒帝国に攻め入られ、ヨナ・ユン・ジェハ・ゼノは戒帝国によって連れ去られてしまい、残ったハク(とキジャとシンア)は火&空の部族と一緒に戦場に出た。そうかハクって将軍だったけど戦場に出て指揮をしたことはなかったのか…火の部族の長だし将軍ではあったけどヨナの護衛だったんだもんね。ハクは登場当初から強い(作中ほぼ最強レベル)からヨナと違って「成長」が描かれることはなかったので、今回みたいにハクの不安が描かれてハクが新しいことに挑戦する姿は見れてよかった。ハクはまだスウォンに対しては平静でいられないので、このまま成長を続けてスウォンのことは吹っ切れてほしい。兵士を鼓舞するシーンはとても素敵でしたよ。

 

今回感想短め。

【漫画】吟鳥子『君を死なせないための物語』第5巻(2019年4月、秋田書店)感想

 

 最近お気に入りのSF少女漫画。

遠い未来、地球に住めなくなってしまった人類は宇宙に建設したコロニー(コクーン)で暮らしていて、その人類の中には「ネオテニイ」と呼ばれる長寿の人々がいる(彼らの寿命は数百年に及ぶ)。ネオテニイは人類を導く特別な存在として期待されていて、長寿なだけでなく各方面の才能に恵まれている(と思われている)。主人公と幼なじみの3人は全員ネオテニイ。また、人類は命の源である地球には帰れないけれど憧れを抱いている。

…というあたりの設定から、竹宮惠子地球へ…』に似てる漫画だなと思った。『きみを〜』のネオテニイも『地球へ…』のミュウもどちらも長寿だし、普通の人間には無い能力(優秀だったり超能力だったり)がある。また、テクノロジーの面だけでなく人々の常識や価値観が現代の我々のそれと全然違うの点でもすごく似てる。例えば『地球へ…』ではコンピューターが結婚相手や職業を全て決めるし、『きみを〜』では人間同士の関係は全て「友だち関係」や「仕事上やり取りをする関係」など関係性に必ず名前がついて関係の契約を結んでいる(契約外の人間に話しかけるのは違法だったりマナー違反だったりする)。そういう作中の世界観に慣れるまでちょっと読みにくくて、でも慣れるとその世界観が癖になるのも似てる。

だからパクリだとか言いたいわけじゃなく、だからすごく面白いんだよと言いたいんです。

 

前置きが長くなったけど、最新刊(5巻)の感想。

一番印象に残ったのはアラタによる幼なじみ3人とダフネーのジジに関する分析。これまでアラタはターラの気持ちに気付いてるのか気付いてないのか判断できなくて、主人公なのに何を考えてるのかもよく分からない人間だった。でもここに来て実はアラタが一番冷静に周囲を見ていたことが判明したんだよね。

ネオテニイは長寿で容姿が美しくて才能に恵まれているなんて言われているけれど、実際のところ容姿と才能は人によりけりで、死ぬ物狂いで努力して優秀な人間に見せてるんだ、でもアラタは本物の天才!とターラが以前説明していたけれど、その優秀さは科学技術だけでなく人間観察にも発揮されていたということなのかな。(ただし見て分かるのと自分が人付き合いを上手くやれるのとは別なんだろうね)

「本物の天才」であるアラタが一体何に絶望して、何を目指して天上人になったのか。それはまだ分からないけど、ようやくアラタのことが分かるような話になってきた。

ちょっと話が難しいのと、まだまだ謎もたくさん散りばめられている漫画なのでなかなか感想を書けるほど自分の中で消化しきれなかったんだけど、4巻の終わりからようやく物語が大きく動き出してきたので少し文章にすることができた。

 

ルイはシーザーに対して冷たすぎるでしょ…アラタの言う通りシーザーは努力してるよ…ルイはシーザーのように体制に従順な人間が嫌いなのは分かるけどシーザーが「分かってない」と思うならルイがちゃんと教えてあげればいいじゃん…とこれまで思ってたんだけど、ルイがここまでシーザーを嫌いな理由も明らかになった。それまではシーザー気の毒だなと思ってたのに、あーそれはどんなにシーザーが良い奴でもダメだ…犯罪だよ…と思ったので、本当に話の作りが上手いなぁと思う。

 

あとは細かいところで気になったのが、「天上人(テクノクラート)」に関する説明。

これまでの話の中で、この世界では科学者でないと長生きさせてもらえない(社会の役に立たない人間は早めに安楽死させられてしまう)ので、昔は単なるお年寄りという意味でしかなかった「老人(オールドマン)」は「科学者」を指すようになったと説明されていた。

それと同じように、「テクノクラート」は地球時代では技術官僚を示す言葉だったのに、この世界では「天上人(テクノクラート)」となり実質的にこの世界を支配する集団になったらしい。

ここすごく面白いよね。価値観が変われば言葉の意味も変わるというのをSF漫画で示してるのも面白いし、技術官僚が政治も何もかも握るようになったというのも面白い。この世界では一応ルイが芸術家を職業としてやってるので、まだ芸術や文学も捨てられてはいないけど、寿命を伸ばすための社会的評価としては点数が低い(社会の役に立つと思われてない)んだよね。人類の役に立つ・立たないで全てを判断していった結果どういう世界になってしまうのか、この漫画はフィクションを通じて実験してるみたい。

 

2019/04/24追記

 

 電子書籍で買ったので〇〇〇〇〇が分からない…気になる…

【読書】三浦綾子『石ころのうた』

 

石ころのうた (角川文庫)

石ころのうた (角川文庫)

 

先日、旅行で旭川に行ったので読んでみた。恥ずかしながら三浦綾子という作家を全く知らなかったのだけど、『氷点』を書いた人なんですね。ドラマを見たことも小説を読んだこともないけどタイトルくらいは聞いたことがありました。その三浦綾子の書いたもののなかで、旅行中だったので気軽に読めるエッセイを…と考えて適当に手に取ったのが本作でした。そしたら内容がまさかの戦時中の話で、文庫版の解説では「三浦綾子の生涯の最暗部」「三浦文学の地獄篇」とまで書かれていて*1、もしかして1番初めに読むのは間違いだった…?と思いながら読み終えました。でも語り口は軽いので読みやすかったです。

三浦綾子は戦時中に教師をしていて、その頃の生徒や周りの人々との思い出について書いたもので、当時、軍国主義に没頭していた三浦綾子が昔を振り返って後悔するという内容でした。

戦時中に軍国主義へ没頭した教師というのは若い人が多かった、年齢層が上の教師(この作品の中では旭川の学校の芦田先生や横沢先生みたいな*2人たち)は大正デモクラシーを知っていた世代なので軍国主義には反発していた、というのは聞いたことがあります。三浦綾子もそういった軍国主義に傾倒した(させられた)若い教師の一人でした。

でも三浦綾子も教師とはいえ20歳そこそこの若者でしかなくて、世の中について何も知らない子どもといってもおかしくないんだよね。だから彼女もまた被害者なんだと思う。というか戦時中の罪について考えると支配者以外はだいたいそうなんだよね、同じ人間が加害者でもあり被害者でもあるっていう…。

語り口は軽いけど、じわじわと心が重くなるエッセイでした。

 

あとは細かいとこ諸々。

288頁 大阪へ行く際、受け持ちの生徒を二分して同学年の教師に預けた。また、教師の視察旅行があった、というくだりが気になった。今の学校の先生と扱いが違う…!視察旅行って何…!?

307頁 飛行場で炊事の手伝い(奉仕)をしてたときに出会ったTさんについて、はじめは嫌な奴だと思ってたのに婚約までした。そこに書いてた「いつか憎む日があるかも知れぬと思ってた愛せよ。いつか愛する日があるかも知れぬと思って憎め」がとても良い言葉だなと思って印象深かった。

*1:田宮裕三、文庫版361頁

*2:224頁,282頁らへん

【映画】「ソローキンの見た桜」(2019年)感想(※後半にネタバレあり)

sorokin-movie.com

日露戦争時代のロミオとジュリエット」というコピーがなんとなく好きじゃなかったんだけど(偏見)、愛媛に何度か行ったことがあるのとロシアに興味があるのとで見に行ってみたら、すごく感動して号泣しました。ストーリーはそんなに複雑じゃないんだけど、それだけに主人公達の恋が直球勝負で表現されていました。すごく良かったです。

以下、前半にネタバレ無し感想、後半にネタバレ有り感想を書きます。

愛媛の観光地もりだくさん

そもそもこの映画はどういう経緯で作られたのかというと、元々は松山城二の丸の井戸跡でロシア兵と日本人看護師女性の名前が刻まれた金貨が発見されたのがきっかけだったらしいです。そこからロシア兵と地元女性との間には恋愛関係があったのでは?と想像され、ラジオドラマとして生まれたのが「ソローキンの見た桜」*1だったとのこと。(ちなみに「ソローキンの見た桜」の主人公二人は金貨のカップルではありません。でも金貨に記載されていた「タケバナカ」さんと「ミハイル・コステンコ」さんも映画に出てきます。)

愛媛県東温市には地域密着型ミュージカル劇場「坊っちゃん劇場」という四国をテーマにしたミュージカル作品のみを上演するという劇場があるのですが、そこでは「誓いのコイン」*2という金貨の二人を描いた作品が上演されたことがあります。しかも金貨が見つかった松山城二之丸史跡庭園は愛媛の「恋人の聖地」として認定されていて*3、地元カップルがウェディングフォトを撮ったりなんかしてるらしいです。つまり、この松山収容所の恋の話は、映画になる前から愛媛の人たちがとても大切にしてきた話なんですよね。

劇中でも地元に密着して撮影したんだなと思えるものがたくさん出てきました。例えば、現代パートでは主人公が坊っちゃん列車*4に乗ったり坊っちゃん団子*5を食べたりしてたし、過去パートでは道後温泉萬翠荘が使われていました。他にも、ロシアの将兵が滞在してたお寺はセットではなく実際に内子町に存在するお寺*6らしいし、内子町の「内子座*7という芝居小屋も出てきました。

何度か観光に行っただけのわたしでさえこれだけのものを見つけたので、地元の人が見たらもっとたくさん見つけられるかもしれません。きっと愛媛の地元の人がたくさんこの映画に関わっているんだろうなというのが感じられて、それだけでも温かい気持ちになれる映画でした。

 

補足なんですが、「坊っちゃん劇場」では「よろこびのうた」 *8という作品が上演されていたこともありました(2018年)。これは第一次世界大戦後の徳島の板東俘虜収容所の話で、日本で初めてベートーベンの「第九」が歌われたのがこの収容所だったという話をもとに作られたミュージカルです。こちらも収容所のドイツ兵と地元の日本人女性との間の恋愛でした。

 

以下はネタバレ有り感想です。(「続きを読む」をクリック)

 

*1:第1回(平成17年)日本放送文化大賞ラジオ部門グランプリ受賞 https://j-ba.or.jp/category/awards/jba100888

*2:平成23年 http://www.botchan.co.jp/coin2/

*3: http://www.matsuyamajo.jp/ninomaru/lovers.html

*4:観光用の路面電車。普通の路面電車よりも料金が高いのでたぶん地元の人は日常的には使わない。笑

*5:地元のお土産物のお菓子

*6:高昌寺というお寺らしいです。https://blogs.yahoo.co.jp/dorinji/37961872.html

*7: http://www.we-love-uchiko.jp/spot_center/spot_c2/

*8:http://www.botchan.co.jp/yorokobinouta/story.html

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【漫画】CLAMP『魔法騎士レイアース』(講談社、連載:1993-1995年)

 

魔法騎士レイアース 新装版全3巻 完結セット

魔法騎士レイアース 新装版全3巻 完結セット

 

私が幼稚園生の頃に雑誌『なかよし』で連載されていた漫画。数年前に古本屋で手に入れて、本棚を整理したら出てきたので読み返した。


内容はよくある異世界もので、校外学習で東京タワーに行った中学生の女の子3人(光・海・風)が「セフィーロ」という世界に飛ばされてしまい、「伝説の魔法騎士(マジックナイト)」となって捕らわれのお姫様(エメロード姫)を助けに行く…というストーリー。


でも世界観が面白いんだよね。セフィーロは「心の強さが全てを決める」という世界で、魔法騎士たちが持ってる武具は彼女らの精神的な成長に伴って変化するし、エメロード姫は「セフィーロを愛する」という「気持ち」でこの世界を支えている。つまり、エメロード姫が「セフィーロよ平和であれ」と願えば、その通りになる。このシステムは、劇中では「柱」システムと呼ばれている。エメロード姫=柱=セフィーロを支える存在、というわけ。
でも、セフィーロのそういう「柱」システムは「柱」の人生を犠牲にした上で成立している。エメロード姫セフィーロ以外を愛することは許されないので、人生の伴侶を持つことも、誰かを心の中で愛することさえもできない。エメロード姫ひとりが我慢すれば、みんなが幸せでいられる。
物語は、このセフィーロの「柱」システムに疑問を持つ形で進んでいく。誰かを犠牲にしなければ成り立たない「柱」システムの世界は本当に美しいの?このままでいいの?と。主人公たちが最終的に打倒するべきと認識するのが敵や悪役ではなく社会システムに至るのが面白いしすごくいいなと思った。

 

ただ、ストーリーはシンプル。でも私がこれをリアルタイムで見ていたのは幼稚園児の頃なんだよね。当時はたぶん漫画ではなくアニメで見てたんだけど。でも連載されていた『なかよし』は小学生向けの漫画雑誌。こういう話を小学生でも理解できるようにまとめあげたCLAMPって天才だよね。