ただ、上原專祿ってあんまり有名じゃないんですよね。歴史学では有名なんですが、教育学の人や一般の人にはあまり知られていないんです。
なので、上原さんってどういう人なのか、初めて彼のことを知る人向けにちょこっと書いてみます。
①何をしてた人なの?
基本的には「歴史家」です。でも、ただの歴史家ではなく、歴史研究以外の色々な活動が有名だった人なんです。
戦前は中世ドイツ史の研究をしていました。
それが戦後になると、歴史教育(とくに世界史教育)についての発言・講演・執筆をたくさんするようになります。いろーんな雑誌に小論を書いたり、いろーんなところで講演会をしたり。教師向けの雑誌や講演会はもちろん、刑務所の慰問講演とかもしたことがあるらしいですよ。文章が当時の国語の教科書に載ったこともあるらしい。とにかく本当にいろーんな活動を通じて「これからの日本に必要なのはこういう世界史教育なんじゃないか?」ということを考え続けていた人なんです。教育学者ではなかったのですが、歴史家の立場から教育を考えていたんですね。
晩年になると、日蓮の研究をするようになるのですが、そのあたりは詳しくないので割愛。でも、朝日新聞の記事によれば、日蓮研究を通じて考察された上原さんの生命倫理の在り方がここ数年は注目されてるらしいです。*1
なお、わたしの修論では、この「歴史教育関係のいろーんな活動」をしてた時期に焦点をあてました。わたしは教育でもなく歴史学でもなく「歴史教育(やや歴史学寄り)」を勉強したかったので、歴史家でありながら教育のことをたくさん考えていた歴史家、というのは研究にピッタリだったんです。
上原さんの影響力ってすごいんですよ。「世界史教育」について書かれた本の中で、上原專祿の名前が一度も出てこないものって、わたしは一度も見たことがありません。単なる世界史の教授学の本は別ですけどね。実は、「世界史」という科目が日本に生まれたのって戦後のことなんです。この「世界史」という新しい教科は何なんだ?何を目的に、何を教えるものなんだ?ということが当時の日本ではたくさん議論されたらしい。その中にあって「世界史ってこういうものなんじゃないか?」と問いかけ続けたのが、上原專祿なんです。
②どんなことを考えていたの?
ひとつめ。「問題意識に基づいて世界史を学ぶこと」を説いていました。細かい知識を網羅することじゃなくて、自分自身の問題意識に基づいて主体的に世界史を学ぶことが大事なんだ!と言ってたんです。
ふたつめ。ものすご~~~く平たく言うと、ナショナリズムに基づいた世界史を掲げていました。↑で書いた「問題意識」というのは、上原さん自身の場合は「ナショナリズム」だったんです。ただし、上原さんは「ナショナリズム」という言葉を(今の私たちから見ると)ちょっと特殊な意味で使っています。他国や他民族に対して排他的になるようなものではありません。
では、上原さんは「ナショナリズム」をどういう意味で使っていたのか?
わたしの修論で突っ込んでいるのはこのあたりなのでした。