@AZUSACHKA 's note

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【漫画】乃木坂太郎『幽麗塔』(2011-2014年、小学館)感想 - 謎解きとセクシャル・マイノリティの物語

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昭和29年の神戸が舞台のミステリー漫画です。ただ、その面白さはミステリーの謎解きだけでなく、この漫画がセクシャル・マイノリティの人々の苦悩を描いているという点にもあると思います。久しぶりに泣きながら読破しました。色んな人におすすめしたいので、おすすめする気持ちを日記にします。

 主人公の「天野」はミステリー小説が好きなニートの青年。物語は、彼が「テツオ」と名乗る謎の美青年に出会い、そして「幽霊塔」と呼ばれる謎の時計台をめぐる事件に巻き込まれていくところから始まります。これは物語の最初の方ですぐに明らかにされることですし漫画配信サイトの「内容紹介」にも書かれていることなのでここにも書いてしまいますが――この「テツオ」という青年の身体は女性なのです。

ただし、いわゆる「男装の麗人」ではありません。彼は「トランス・ジェンダー」つまり「男性の心を持っているのに女性の身体を持って生まれてきた人」です。でも、わたしはテツオについて「男性の心/女性の身体」と説明しましたが、この漫画の面白いところは、物語を最後まで読むと「人の心を男性or女性で区切ることなんてできないんじゃないか」と思わせられるストーリー展開にあります。

例えば、天野とテツオは幽霊塔の謎解きの最中に追手から身を隠すために変装します。テツオはすでに「男装」をしているので、天野が「女装」をすることになります。天野は身も心も男性なのですが、女装をすることで、女性として扱われる喜びや、一方で女性だからこそ味わう恐怖を体験することになります。テツオは女性の服を着ても心が女性になることはなかったけど、天野は女性の服を着ることで女性の心を理解しちゃうんですね。おもしろいでしょ?「人の心を男か女かで区切れない」と感じた要素は他にもたくさんあるのですが(特に最後!!)これ以上書くとネタバレを書きすぎになるのでやめます。

そして――これは、ここ数年のわたしの個人的な問題意識でもあって、だからこそわたしにとって最も心に響いた点なのですが――「差別をする『普通の』人々という存在」がはっきりと問題意識を持って描かれているのがすごく良いと思うんです。ジェンダーに限らず人種・民族・国籍での差別もそうなのですが、差別をする人って、必ずしも政治的に偏った見方を持った人たちばかりではなく、日常生活ではとても善良な「普通の」人々が差別をすることも多いですよね。むしろそれこそが差別の問題の根幹であるとも言える。この漫画でも、そのことがハッキリと描かれています。

というわけで、本当に色んな人におすすめしたいな~と思った漫画でした。ジェンダーの話ばっかり書きましたが、謎解きの部分も本当に面白いですよ。マンガアプリで無料試し読みもやってるので、気になった方はぜひ読んでみてください。