あけましておめでとうございます。2016年に見た映画・読んだ本・読んだ漫画・訪れた料理屋さんで印象に残ったものをだらだら書きます。去年は全然ブログを更新しなかったのですが、せっかく色々見てきたのに何も書かないのはすごくもったいないよな…と思ったので、印象に残ったものだけでも書きだしてみることにしました。年間で何十本も映画を見るわけでもないし、何十冊も本を読むわけでもないし、特にグルメというわけでもないのですが、それでも一年間に自分の見てきたもののなかで印象深かったものをまとめてみると、とりたてて特別な趣味というものがなくてもなんとなく一貫性があるような気がしておもしろかったです。
【映画】
シン・ゴジラ
説明不要ですね。言わずと知れた大ヒット作です。まさか紅白歌合戦にまで出てくるなんて…!エヴァが好きなのでおもしろかったし(BGMが特に気に入った)、石原さとみと惣流・アスカ・ラングレーが好きなのでカヨコ・アン・パタースンも好きになりました。
ブリッジ・オブ・スパイ(スピルバーグ監督、2015年、アメリカ)
【映画】「ブリッジ・オブ・スパイ」(スピルバーグ監督、2015年、米国)感想 - Стойкий Мужик!! 不安は何の役にも立たない。 - Unknown Lady's Diary (※単体での日記です)
冷戦期にアメリカでソ連のスパイが逮捕されるのですが、彼の弁護を担当したアメリカ人弁護士が奮闘して裁判に勝ってしまい、そこからドキドキハラハラが始まったり、その中にも「愛国とは星条旗への忠誠を指すのか」みたいな社会的な内容が含まれていたり…と、一粒で二度おいしい、という映画でした。アベル(ソ連のスパイ)役のマーク・ライランスはアカデミー賞助演男優賞を受賞しましたよ。
アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男(ラース・クラウメ監督、2015年、ドイツ)
アルゼンチンに逃亡していたアイヒマンを捕まえたのはイスラエルの諜報機関モサドだけど、その裏で暗躍していた検事フリッツ・バウアーを主人公にした映画。これもすっごくおもしろかったです!!バウアーという人物は後に1963年のアウシュビッツ裁判にもかかわってくる人。その人が実はアイヒマン逮捕にもかかわっていたんだよ~という話です。1945年に戦争は終わったけれど、その後アウシュビッツ裁判が行われたのは1963年のことなので、この時代(まだドイツ人自身がドイツの過去の罪を裁くには至っていなかった時代)は「沈黙の50年代」と言われている時代でした。その頃の空気がよく伝わってくる映画です。「ハンナ・アーレント(1961年のアイヒマン裁判)」や「顔のないヒトラーたち(1963年のアウシュビッツ裁判)」を見た人は絶対に見たほうがいいし、これから「アイヒマンを追え」を見る人は、そのあとでこの2つも見るといいと思う。ドイツ人の50年代~60年代初頭の過去との向き合い方って、日本人であるわたしたちにとって他人事ではな話だからね。わたしは10月のドイツ映画祭で見ましたが、1月7日(土)~一般公開されるみたいなのでぜひ見てほしいです。
アンネの日記(ハンス・シュタインビヒラー監督、2016年、ドイツ)
こちらも10月のドイツ映画祭で見ました。『アンネの日記』は1959年にも映画化されていますが、その頃に出版されていた『日記』では生理の話やアンネのお母さんとの確執がお父さんの手によって削除されていたので、もちろん映画にも描かれていません。でも、この2016年版の映画では、そうした部分(昔の『日記』では削除されていた部分)が反映されています。まさに、その部分がとてもおもしろかったんです。お母さんやお父さんはアンネをちゃんと愛しているけど、その二人自身も生活が大変でものすごいストレスを抱えてるからアンネに上手く対応できないし、それによってアンネはつらい思いを抱えていても家族には守ってもらえなくて、そんな中で見つけた希望がペーターとの恋で…みたいな感じ。戦争映画としてだけでなく、とある家族の物語として見ることができる映画でした。
みかんの丘(ザザ・ウルシャゼ監督、2013年、エストニア・ジョージア合作)
【映画】ザザ・ウルシャゼ監督「みかんの丘」感想(2013年、エストニア・ジョージア合作) - みかんとシャシリクが繋いだ関係 - Unknown Lady's Diary (※単体での日記です)
90年代前半、ジョージア(グルジア)西部のアブハジアに住むエストニア移民と、チェチェン人の兵士、ジョージア(グルジア)人の兵士の3人が心を通わせる映画です。宗教・民族・国家を越えて人と人が分かりあえる…なんて、言葉にするとなんとなく軽薄で手垢のついた感じになってしまいますが、そういう希望を持てるような映画だったんです。
【本】
井澗裕『サハリンのなかの日本――都市と建築(ユーラシア・ブックレット)』(東洋書店、2007年)
2016年の3月にサハリンを旅行で訪れたのですが、その予習として読みました。ユジノサハリンスクをはじめとしたサハリン島に残る日本時代の建築を紹介しています。某歩き方でもきちんと紹介されていないような建築物も紹介されています。わたしはこれを読んで、ユジノサハリンスク郊外の旧王子製紙工場やその近くにある日本時代の橋などに行きました。サハリンはあまり観光地らしい観光地がないのですが、「これも日本時代のものなんだ!」という発見をしながら街歩きをすると宝探しみたいで楽しいんです。あまりサハリンまで行く人はいないと思いますが笑、もしサハリンへ訪れる機会があればぜひ読んでみてほしい本です。(ただしユーラシア・ブックレットなのであまり手に入らないかも…)
サハリンのなかの日本―都市と建築 (ユーラシア・ブックレット)
- 作者: 井澗裕
- 出版社/メーカー: 東洋書店
- 発売日: 2007/06
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トム・リース著、高里ひろ訳『ナポレオンに背いた「黒い将軍」――忘れられた英雄アレックス・デュマ』(白水社、2015年)
『椿姫』の小デュマ、『三銃士』『モンテ・クリスト伯』の大デュマ。二人のデュマは有名ですが、この本の「デュマ」は大デュマの父親です。この初代デュマは、ナポレオンと同時代のフランスの将軍で、しかも白人と黒人の混血でした。そのデュマの伝記です。佐藤賢一の歴史小説『黒い悪魔』でも描かれている人物ですね。おもしろいポイントは2つあります。1点目は、初代デュマがものすごく魅力的な人だということです。将軍として有能なのはもちろん、自分で馬にまたがり剣をとって戦っても強いし、身長187cmのとびきりハンサムなルックスだし(しかも黒人との混血だからフランス人にはエキゾチックに見えるので魅力は倍増する)*1、正義を重んじる高潔な人柄だし(彼はフランス革命と共和国の支持者でした)…まさに物語の主人公のような魅力的な人物なんです。実際、大デュマが父親をモデルにしてますしね。とにかくイケメンです。2点目は、黒人と白人の混血である初代デュマが生きた時代は、フランスで黒人奴隷が解放され、そしてナポレオンによって黒人奴隷が復活された時代でもある、という点です。ちょうど初代デュマの人生を追うと、フランスの黒人奴隷の歴史の重要な一部分を知ることができるんですね。彼自身、将軍にはなったものの、子どもの頃はハイチで奴隷として扱われていたんです(だからこそ彼はフランス革命を支持するのです)。そういう点でも勉強になるしおもしろい本です。
ナポレオンに背いた「黒い将軍」:忘れられた英雄アレックス・デュマ
- 作者: トム・リース,高里ひろ
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2015/04/21
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若松英輔『NHK100分de名著 石牟礼道子『苦海浄土』2016年9月』(NHK出版、2016年)
これ自体は本というより、Eテレの「100分de名著」という番組の内容を書籍化したものなんですが、『苦海浄土』そのものはまだ読めていないのでこちらを挙げます。でもこの番組とこの本だけでもすごかったんです。水俣病はただの公害問題ではなく、日本の経済発展や生命倫理、自然や神様との付き合い方など様々な問題を見つめなおすきっかけにもなった事件なのですが、そのように水俣病を一つの思想にまで発展させたものの一つが『苦海浄土』らしいのです。元々の文章は水俣の方言で書かれていて、(正直に言うと)書き言葉で読むのはちょっと大変なのですが、これは若松英輔氏が彼なりの視点で『苦海浄土』について書いたものなので、すごく読みやすいです。
NHK 100分 de 名著 石牟礼道子 『苦海浄土』 2016年 9月 [雑誌] (NHKテキスト)
- 出版社/メーカー: NHK出版
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田野大輔『愛と欲望のナチズム』(講談社、2012年)
ナチス政権の時代の「性」にまつわる政策について書かれた本です。お年頃のアラサーとしては、ナチズムの少子化対策が気になりました。この本によれば、少子化対策の一環&当時の市民道徳への反発として、性に対する新しい価値観をナチズムは唱えたらしいんです。例えば、「愛のない結婚や子どもを産まない結婚よりも、婚外関係でもいいから子どもを作ることが大切」だとか「未婚の母が中絶を図らないように支援する母子養護施設(「生命の泉」)を作る」だとか…。これはわたしの身の回りの話なんですが、最近、男女問わず「結婚はしたくないけど子どもはほしい」と言う人は少なくないんですよね。もし「婚外関係だって非難しないから子どもを作っていいよ、そのためなら国と政党はたくさん支援するよ」なんて言ってくれる政党がもし今の日本に存在したら?仮にその政党がレイシズムを掲げて侵略戦争をしようとしていたとしても、わたしは拒み切れるんだろうか…、なんて考えてしまいました。注つきの学術書ですが読みやすいですよ~。
【漫画】
吟鳥子『アンの世界地図〜It's a small world〜』(秋田書店〈ボニータコミックス〉、全5巻、単行本発売2014~2016年)
ガール・ミーツ・ガール漫画です。ネグレクトによって親からの愛情を受けずに育った少女「アン」と徳島の古民家で一人暮らしをする少女「アキ」が出会い、アンはアキとの出会いによって初めて愛情を知り、アキもまたアンとの出会いによってとある秘密から救われる…という物語です。ボーイ・ミーツ・ガール(あるいはその逆)漫画は世の中にたくさんありますが、ガール・ミーツ・ガール(それも百合漫画のような恋愛関係ではない)の物語ってそんなに多くないように思います。アンが生まれて初めて「きちんとした生活」(それまでネグレクト家庭だったので)を学んでいく過程のディティールが素敵です。
アンの世界地図~It’s a small world~ 1 (ボニータコミックス)
- 作者: 吟鳥子
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 2014/02/14
- メディア: コミック
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乃木坂太郎『幽麗塔』(小学館〈ビッグコミックス〉、全9巻、単行本発売2011~2014年)
【漫画】乃木坂太郎『幽麗塔』(2011-2014年、小学館)感想 - 謎解きとセクシャル・マイノリティの物語 - Unknown Lady's Diary (※単体での日記です)
昭和29年の神戸が舞台のミステリー漫画です。ただ、ミステリーというよりも、セクシャル・マイノリティを描いた物語としておすすめしたいです。ストーリーは、ミステリー小説好きのニート青年「天野」が、謎の美青年「テツオ」に出会うことから始まります。この「テツオ」は女性の肉体を持って生まれてきてしまった青年です。わたしたち読者は、主人公・天野の視点を通して、テツオの性にまつわる苦悩を知ることになります。ひとつ前に書いた『アンの世界地図』はガール・ミーツ・ガールでしたが、こちらのほうはボーイ・ミーツ・ボーイの漫画ですね(ボーイではなく青年ですけど)。人の心の中を男性か女性かで分けることなんてできないよな~と思わされた漫画でした。久々に泣きながら一気読みした作品です。
【料理屋さん】
銀座のアラブ料理屋「ミシュミシュ」
泰明小学校の奥・コリドー街のちょっと手前にひそんでいる、隠れ家っぽいアラブ料理屋さんです。リーズナブルだし、こじんまりとしていて落ち着いた雰囲気のお店です。おいしいし、きれいだし、水たばこもあるし、リーズナブルだし…!(しかもお冷をお願いすると、なぜかグルジアワインの陶器のボトルに入れられて持ってきてくれます。なんでグルジア…?というツッコミは野暮ですよ!)ということで、去年新規開拓したお店では一番気に入ったお店でした。アラカルトがなくてコースでしか注文できないのが難点かもしれませんが、わたしはアラブ料理をアラカルトで注文するほどよく知らないので個人的には問題ありませんでした。笑
http://www.mishmish-tokyo.com/
大井町のロシア料理「ロマーシカ」
【グルメ】大井町の「ロマーシカ」というロシア料理屋に行ってきた(2016年1月) - Unknown Lady's Diary (※単体での日記です)
日本人男性とロシア人女性の夫婦が営んでいるロシア料理屋さんです。ラーメン屋さんかな?というくらい小さなお店です。ロシア料理屋さんって割と高級感ある感じのお店が多いのですが、こちらはリーズナブルで気軽に楽しめる感じの価格設定です。ボルシチはトマトスープではなくちゃんとビーツのスープだし、サーロ(豚脂の塩漬け)もあるし、ウォッカも色々な種類が置いてあります。カウンター席なので、マスターとの会話も楽しめますよ。おいしいし、穴場です。
以上、2016年に見たもの・食べたものを振り返りました。ドイツ映画を見たり、ロシア料理を食べたり、一方で戦後思想ももうちょっとかじりたくなったりと、振り返ってみればちゃんと自分らしい一年を送っていたみたいで嬉しくなりました。去年のお正月に更新した日記を見てみると、これからの人生どうやって生きていこうかな的な文章を終わりの方にちょこっと書いているのですが、少なくとも趣味の部分については自分のやりたいことがハッキリしてきたようで、この1年で少しは自分に変化があったのかと思って嬉しくなりました。今年はもっとちゃんと勉強したりブログ書いたりしたいです。おわり。