@AZUSACHKA 's note

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【漫画】吟鳥子『君を死なせないための物語』第5巻(2019年4月、秋田書店)感想

 

 最近お気に入りのSF少女漫画。

遠い未来、地球に住めなくなってしまった人類は宇宙に建設したコロニー(コクーン)で暮らしていて、その人類の中には「ネオテニイ」と呼ばれる長寿の人々がいる(彼らの寿命は数百年に及ぶ)。ネオテニイは人類を導く特別な存在として期待されていて、長寿なだけでなく各方面の才能に恵まれている(と思われている)。主人公と幼なじみの3人は全員ネオテニイ。また、人類は命の源である地球には帰れないけれど憧れを抱いている。

…というあたりの設定から、竹宮惠子地球へ…』に似てる漫画だなと思った。『きみを〜』のネオテニイも『地球へ…』のミュウもどちらも長寿だし、普通の人間には無い能力(優秀だったり超能力だったり)がある。また、テクノロジーの面だけでなく人々の常識や価値観が現代の我々のそれと全然違うの点でもすごく似てる。例えば『地球へ…』ではコンピューターが結婚相手や職業を全て決めるし、『きみを〜』では人間同士の関係は全て「友だち関係」や「仕事上やり取りをする関係」など関係性に必ず名前がついて関係の契約を結んでいる(契約外の人間に話しかけるのは違法だったりマナー違反だったりする)。そういう作中の世界観に慣れるまでちょっと読みにくくて、でも慣れるとその世界観が癖になるのも似てる。

だからパクリだとか言いたいわけじゃなく、だからすごく面白いんだよと言いたいんです。

 

前置きが長くなったけど、最新刊(5巻)の感想。

一番印象に残ったのはアラタによる幼なじみ3人とダフネーのジジに関する分析。これまでアラタはターラの気持ちに気付いてるのか気付いてないのか判断できなくて、主人公なのに何を考えてるのかもよく分からない人間だった。でもここに来て実はアラタが一番冷静に周囲を見ていたことが判明したんだよね。

ネオテニイは長寿で容姿が美しくて才能に恵まれているなんて言われているけれど、実際のところ容姿と才能は人によりけりで、死ぬ物狂いで努力して優秀な人間に見せてるんだ、でもアラタは本物の天才!とターラが以前説明していたけれど、その優秀さは科学技術だけでなく人間観察にも発揮されていたということなのかな。(ただし見て分かるのと自分が人付き合いを上手くやれるのとは別なんだろうね)

「本物の天才」であるアラタが一体何に絶望して、何を目指して天上人になったのか。それはまだ分からないけど、ようやくアラタのことが分かるような話になってきた。

ちょっと話が難しいのと、まだまだ謎もたくさん散りばめられている漫画なのでなかなか感想を書けるほど自分の中で消化しきれなかったんだけど、4巻の終わりからようやく物語が大きく動き出してきたので少し文章にすることができた。

 

ルイはシーザーに対して冷たすぎるでしょ…アラタの言う通りシーザーは努力してるよ…ルイはシーザーのように体制に従順な人間が嫌いなのは分かるけどシーザーが「分かってない」と思うならルイがちゃんと教えてあげればいいじゃん…とこれまで思ってたんだけど、ルイがここまでシーザーを嫌いな理由も明らかになった。それまではシーザー気の毒だなと思ってたのに、あーそれはどんなにシーザーが良い奴でもダメだ…犯罪だよ…と思ったので、本当に話の作りが上手いなぁと思う。

 

あとは細かいところで気になったのが、「天上人(テクノクラート)」に関する説明。

これまでの話の中で、この世界では科学者でないと長生きさせてもらえない(社会の役に立たない人間は早めに安楽死させられてしまう)ので、昔は単なるお年寄りという意味でしかなかった「老人(オールドマン)」は「科学者」を指すようになったと説明されていた。

それと同じように、「テクノクラート」は地球時代では技術官僚を示す言葉だったのに、この世界では「天上人(テクノクラート)」となり実質的にこの世界を支配する集団になったらしい。

ここすごく面白いよね。価値観が変われば言葉の意味も変わるというのをSF漫画で示してるのも面白いし、技術官僚が政治も何もかも握るようになったというのも面白い。この世界では一応ルイが芸術家を職業としてやってるので、まだ芸術や文学も捨てられてはいないけど、寿命を伸ばすための社会的評価としては点数が低い(社会の役に立つと思われてない)んだよね。人類の役に立つ・立たないで全てを判断していった結果どういう世界になってしまうのか、この漫画はフィクションを通じて実験してるみたい。

 

2019/04/24追記

 

 電子書籍で買ったので〇〇〇〇〇が分からない…気になる…