@AZUSACHKA 's note

わたしの感想をわたしが読みたい。

【映画】「ヒトラーと戦った22日間」(2018年)感想※ネタバレなし

http://www.finefilms.co.jp/sobibor/

 

ヒトラーと戦った22日間」を東京女子大学での試写会*1で見てきた。タイトルに「ヒトラー」が入るのでドイツ映画かな?と思う人がいるかもしれないけれど、これはポーランドのソビボル絶滅収容所が舞台のロシア映画*2

良い映画だったと思う。でもあれを良い映画だ、意味ある映画だと紹介する文章は世の中にたくさん生まれそうなので、それ以外に自分の思ったことを書いてみる。

 

映画を見て、まず思ったこと。タイトルは「ヒトラーと戦った」だけど、ヒトラーとは戦っていないし、そもそもヒトラーは出てこない。原題はシンプルに「ソビボル」なのに、どうしてこうなったんだろう。遠目で見ればヒトラーとも戦っているけれど、でもタイトルがこんなに違うと映画の主題まで変わってしまうと思う。
そもそもホロコーストってヒトラー個人の力で実行したわけじゃない。ヨーロッパに根付く反ユダヤ主義とか、ナチス・ドイツの政治システムとか…色々な要因があるものなのに、ヒトラーという個人名を出されると「元凶はヒトラーという悪魔のせい」というところに戻ってしまうんじゃないかな…そうじゃないんだってハンナ・アーレントとかが言ってわけだし他にもたくさん研究されてきたんじゃんね…

 

加えて、公式ホームページについて。イントロダクションでは、「収容所に送られてくる美女に『ゆれる人魚』のミハリーナ・オリシャンスカヤ」との紹介文があり、キャスト紹介では、主役、敵役、主役の仲間の女性に続いてこのオリシャンスカヤが並んでいる。
でも、オリシャンスカヤは正直チョイ役だった。この三人に続けて並べるなら、もっと他にふさわしいメインキャストがいたと思う。そんな位置のキャストを、しかも「美女」として、わざわざ前に出してくる。美女を餌にしようとしてるんだよね。
(そもそもメインキャストでもないのにあんなところに配置するのやめてほしい。映画が分かりにくくなる…)
※彼女については、配給についてだけでなく劇中での描かれ方にも思うところがあるのだけど、ネタバレになるので脚注に。*3

 

試写会後のトークイベントで東京女子大学の柳原准教授が、この映画のポスターで収容所の金網とコラボしたものが作られたことに言及していたけれど、邦題の付け方、オリシャンスカヤの描かれ方についても、こういう意義深い映画を扱うのにふさわしい演出がもっとあったんじゃないかな…と思う。見ごたえあるし、良い映画なんだけど、だからこそ小さな疑問点が目立ってしまうような。

 

ロシアではかなりヒットした映画らしいけど、どういう受け止められ方でヒットしたんだろうね。あまり考えたくないことだけど、「ソ連に英雄がいた!」みたいな盛り上がりだったらやだな…。

 

追記2018/09/09

http://young-germany.jp/2018/09/sobibor/

ドイツ人の翻訳家・マライさんによるレビューを読んだら色々納得しました。このレビューでは、プーチン政権のメディア活用イメージ戦略(論理性ではなく煽情性を重視する)に言及されています。この映画を見て「うーん…」と感じた人はなるほどと思うはずなので、ぜひ読むといいですよ。

*1:2018/09/04

*2:主人公にあたる収容者がソ連軍将校なのでロシアで作られることになったのかな?

*3:ねえ、ガス室で殺される女性たちの中に美女にがいることをわざわざ取り上げる必要ある?美女だから余計にかわいそう!とは普通思わないよね?