@AZUSACHKA 's note

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【映画】「ソローキンの見た桜」(2019年)感想(※後半にネタバレあり)

sorokin-movie.com

日露戦争時代のロミオとジュリエット」というコピーがなんとなく好きじゃなかったんだけど(偏見)、愛媛に何度か行ったことがあるのとロシアに興味があるのとで見に行ってみたら、すごく感動して号泣しました。ストーリーはそんなに複雑じゃないんだけど、それだけに主人公達の恋が直球勝負で表現されていました。すごく良かったです。

以下、前半にネタバレ無し感想、後半にネタバレ有り感想を書きます。

愛媛の観光地もりだくさん

そもそもこの映画はどういう経緯で作られたのかというと、元々は松山城二の丸の井戸跡でロシア兵と日本人看護師女性の名前が刻まれた金貨が発見されたのがきっかけだったらしいです。そこからロシア兵と地元女性との間には恋愛関係があったのでは?と想像され、ラジオドラマとして生まれたのが「ソローキンの見た桜」*1だったとのこと。(ちなみに「ソローキンの見た桜」の主人公二人は金貨のカップルではありません。でも金貨に記載されていた「タケバナカ」さんと「ミハイル・コステンコ」さんも映画に出てきます。)

愛媛県東温市には地域密着型ミュージカル劇場「坊っちゃん劇場」という四国をテーマにしたミュージカル作品のみを上演するという劇場があるのですが、そこでは「誓いのコイン」*2という金貨の二人を描いた作品が上演されたことがあります。しかも金貨が見つかった松山城二之丸史跡庭園は愛媛の「恋人の聖地」として認定されていて*3、地元カップルがウェディングフォトを撮ったりなんかしてるらしいです。つまり、この松山収容所の恋の話は、映画になる前から愛媛の人たちがとても大切にしてきた話なんですよね。

劇中でも地元に密着して撮影したんだなと思えるものがたくさん出てきました。例えば、現代パートでは主人公が坊っちゃん列車*4に乗ったり坊っちゃん団子*5を食べたりしてたし、過去パートでは道後温泉萬翠荘が使われていました。他にも、ロシアの将兵が滞在してたお寺はセットではなく実際に内子町に存在するお寺*6らしいし、内子町の「内子座*7という芝居小屋も出てきました。

何度か観光に行っただけのわたしでさえこれだけのものを見つけたので、地元の人が見たらもっとたくさん見つけられるかもしれません。きっと愛媛の地元の人がたくさんこの映画に関わっているんだろうなというのが感じられて、それだけでも温かい気持ちになれる映画でした。

 

補足なんですが、「坊っちゃん劇場」では「よろこびのうた」 *8という作品が上演されていたこともありました(2018年)。これは第一次世界大戦後の徳島の板東俘虜収容所の話で、日本で初めてベートーベンの「第九」が歌われたのがこの収容所だったという話をもとに作られたミュージカルです。こちらも収容所のドイツ兵と地元の日本人女性との間の恋愛でした。

 

以下はネタバレ有り感想です。(「続きを読む」をクリック)

 

家父長制という障害

恋愛映画には病気、身分の差、家庭の事情、すれ違いなどの障害がつきものです。愛し合う二人には必ず困難があるのです。「ソローキンの見た桜」では国籍(ロシアと日本)になるのかな…と観賞前は勝手に予想していたのですが、どちらかというと「障害」は家父長制だったように思います。

現代で新しく作られる作品において、きっともうお国の違いは障害になんかならないんですよね。ゆいさんは最初こそ彼女の兄弟がロシア軍によって殺されたということで悲しみをソローキンにぶつけそうになりますが、そのへんは割とあっさり乗り越えます。ロシア人と日本人だということは、二人の愛にとっては何も問題ではなかったということなんだと思います。

その点、家父長制は普遍的な障害です。例えばゆいさんの実家が経済的に裕福で、ソローキンとの恋愛が許されないのは相手がロシア人だから…敵国だから…という描き方もありえないわけじゃないけど、そういう風には描かれず、具体的にゆいさんの恋を阻んでいたのは実家の経済事情と父親&兄でした。この映画で良かったのはそのへんかなと思います。古典的な恋愛映画ですけど、家父長制は今も昔も人類の敵なので、そういう意味で古典的だけど古臭くない映画だったのかなと感じました。

 

あとは細かいところの感想(箇条書き)。

  • 「ダー(ロシア語でДа=英語のYes)言うな」が面白かった
  • ペテルで桜子さんがおばあちゃんと電話をする橋は、映画『白夜』(現代版アレンジのほう)にも出てきた橋だった。(感想というか、気付いたところ)
  • ゆいさんが可憐ですっごくかわいかった。ゆいさんが泣き顔を見せまいとソローキンに背を向けて泣くシーンは、ドラマ&映画の女性が泣くシーンの中で一番ぐっときたかも…あんな風に泣かれたら後ろから抱きしめたくなるのもよーく分かる。笑
  • 病院でのダンスシーンがとても楽しかった。ソローキンがゆいさんにシャルウィダンス?してたのも素敵だったし、その後ろでキャー!ってナカさんがしてたのもすごく良かった。映画を見てる人はナカさんと同じ気持ちだったと思う
  • ソローキンの子どもを身ごもったゆいさんを結婚相手(銀行マン)は全て受け入れた、という結果はちょっと都合良すぎかなと思った。この時代だときっと子どもは見た目で差別されていた可能性の方が高いわけだし…。でももしゆいさんがソローキンの子を身ごもったことで不幸な人生を送っていたとしたら話にまとまりが無くなってしまうし、視聴者としてもゆいさんが不幸な目にあうのを見たいわけではないので笑、ああいう風にまとめるしか無かったのかなとは思う。

*1:第1回(平成17年)日本放送文化大賞ラジオ部門グランプリ受賞 https://j-ba.or.jp/category/awards/jba100888

*2:平成23年 http://www.botchan.co.jp/coin2/

*3: http://www.matsuyamajo.jp/ninomaru/lovers.html

*4:観光用の路面電車。普通の路面電車よりも料金が高いのでたぶん地元の人は日常的には使わない。笑

*5:地元のお土産物のお菓子

*6:高昌寺というお寺らしいです。https://blogs.yahoo.co.jp/dorinji/37961872.html

*7: http://www.we-love-uchiko.jp/spot_center/spot_c2/

*8:http://www.botchan.co.jp/yorokobinouta/story.html