明治・大正・昭和にかけての十勝・浦幌を舞台に、アイヌの親子三代の生活と戦いを描いた小説。下巻は図書館の返却期限に間に合わなかったのでギブアップ、上巻だけ読んだ。(下巻を読むかどうかは未定…)
漫画『ゴールデンカムイ』を読んでるのと朝ドラ『なつぞら』を見ているのとで興味があって手に取ってみたんだけど、「北海道を舞台にしたレ・ミゼラブル」という感じの悲惨な話が続くので読んでてしんどかったです。でも北海道開拓の裏にはこういったアイヌ差別があったことは絶対に忘れてはいけない歴史なので、『なつぞら』でウキウキしてる今だからこそ読むには良いタイミングだったのかもしれない。*1
それに、アイヌの生活が細やかに描かれているので、そのへんは読んでてとても興味深かった。
主人公のオコシップ(アイヌ男性)は幼い頃に父が「クンチ(強制連行)」によって国後に連れられてしまい(1860年)、貧しい生活を送っていた。それでもオコシップの若い頃は猟によってなんとか生計を保っていたが、40歳を過ぎた頃には浦幌周辺の和人の開墾が進んだことにより野生動物の数が減り、猟に頼った生活も難しくなっていた。1892年、旧土人保護法によって政府から土地を与えられるものの、そこは水害の多い土地で、開墾には大変な苦労が必要だった。アイヌとしての誇りを横に置き、生きるために畑を耕すものの、水害の多さに農業は諦めて林業に従事することになった。しかしその林業においても………というのが上巻のおおまかなストーリー。
まず文章がしんどい。まるでアイヌ語で書かれた小説を日本語に翻訳したかのような文章なんだよね。もちろんこれは日本語で書かれた小説なのでそれはありえないんだけど、「分からない」と感じる様々な部分が翻訳物の小説を読んでる時に感じるものなんだよね。例えば以下のような感じ。
- 文章を追っているはずなのに読んでるうちにいつのまにかよく分からなくなってくる(日本語だと思ってさらっと読んでると頭に入っていかない、外国語の小説だと思って集中して読まないと理解しにくい)
- 登場人物(アイヌ)の笑いどころが理解できないシーンがある
- 登場するアイヌ語が固有名詞なのか一般名詞なのかすら理解できない、名前を見ただけでは男なのか女なのかすら分からない、それにより登場人物の名前も覚えにくい(救いは、アイヌの名前には名字が無いくらい…)
- にもかかわらず登場人物が多い
でもいくら日本語で書かれたものとはいえ、アイヌの物語を和人であるわたしが簡単に理解できるなんて思うのがそもそも間違ってるんだとは思う。日本語の小説ではなくアイヌ語の小説の翻訳だと思って読むものなのかもしれない。
もう一つしんどかったのがストーリー。冒頭にも少し書いたけど、基本的に和人に虐げられるアイヌの話なので登場するアイヌたちがみんな悲惨な生活を送っていて、読んでるだけでしんどい。しんどい生活の中で子どもが生まれてささやかな幸せを噛み締める〜みたいなのもない。ちょっと上手くいくかなと思ったらあっという間にダメになる、その繰り返し。実際その通りなんだろうけど、小説で読むにはかなりエネルギーが要るかな…勉強だと思って取り組まないと向き合えないかも。
下巻ではオコシップの息子や孫?が主人公になるみたいだけど、前向きなエンディングになったり何か救いがあったりはするのかなぁ…でもこのあとの日本とアイヌの歴史を思うと幸せになる可能性は低そう…
『ゴールデンカムイ』の作者は取材で会ったアイヌの方から「可哀想なアイヌなんてもう描かなくていい。強いアイヌを描いてくれ」と言われたことがあるらしいんだけど*2、なるほど可哀想なアイヌというのはこんな描写かぁ…と感じてしまった。(でも強いアイヌばかりが描かれてもアイヌの歴史をきちんと伝えることはできないので、どっちのアイヌ像も必要なんだとは思う。)
感想はここまで。
実は人名が難しすぎてメモを取りながら読んでました。この作品はWikipediaになってなくて、作中の登場人物一覧みたいなものがどこにもないので、せっかくだしここに自分でメモした内容を載せておきます。
第一部
- オコシップ:主人公。アイヌとしての暮らしを守ろうとして、それを壊す和人や和人にこびるアイヌを恨んでいる。
- レウカ:オコシップの父。オコシップが7歳のときにクンチで国後に連行される。
- エシリ:オコシップの母
- チキナン、ナウフツ、カロナ:オコシップの妹
- サクサン:レウカの弟
- ウロナイ:サクサンの妻
- テツナ:サクサンの長男
- トラリヤ:サクサンの次男
- モンスパ:サクサンの娘
- エンカリ:サクサンの末娘
- ヤエケ:松前藩が支配していた漁場で小使いをしていた役付きアイヌ。兄は首長オニシャイン。
- サウシ:ヤエケの妻
- ヌイタ:ヤエケの娘
- イホレアン:首長オコシャインの息子
- ハルアン婆:主人公と同じコタンに住むおばあさん。よくアイヌの詩を歌っている。
- ヘンケ:オコシップの住むコタンの男
- シテパ:ヘンケの息子
- カイヨ:オコシップの住むコタンの男
- リイミ:カイヨの妻
- サケム:カイヨの息子
第二部
- 周吉:オコシップの息子。和名をつけられている。
- フミ:テツナの妻。和人
- トラエ:ヘンケの息子
- トレペ:ヘンケの妻
*1:泰樹さんは作中の西田徳太郎のような嫌な奴じゃないけど、きれいごとだけじゃ開拓なんてできなかったとは言ってたし…