@AZUSACHKA 's note

わたしの感想をわたしが読みたい。

【読書】鈴木ふさ子『氷上のドリアン・グレイ 美しき男子フィギュアスケーターたち - 文芸評論家によるトリノ・バンク世代の男子スケーター批評

 

氷上のドリアン・グレイ―美しき男子フィギュアスケーターたち

氷上のドリアン・グレイ―美しき男子フィギュアスケーターたち

 

オスカー・ワイルド研究が専門の文芸評論家で尚且つフィギュアスケートの取材も長年に渡って続けている著者によるフィギュアスケート批評の本。
すごく面白かったー!文芸評論が専門なだけあって、物語を演じるタイプのプログラムへの理解が深いのを感じるし、何より扱っている男子スケーター(羽生結弦、髙橋大輔、ブライアン・ジュベール、トマシュ・ヴェルネル、ジョニー・ウィアー)にそれぞれ文学作品の登場人物になぞられて付けられた以下の各章タイトルが面白い。

 


4回転にスケート人生を捧げたジュベールのことをアーサー王伝説の騎士に例えるなんて、めちゃくちゃ彼を肯定してるし、愛を感じる。


こんな風に文芸批評の切り口でスケーターについて書いているのがすごく面白い本です。


ただ、この本は、この各章タイトルから見ても分かる通り、男子スケーター全般を扱ったというよりは、著者の特にお気に入りのスケーターを取り上げたものなのだと思う。羽生結弦以外の4人はみんな同じ時代を戦っていた同世代のスケーターであるのも著者の好みを伺わせる。ブックメーター等では「著者の好みに偏りすぎ」という感想を見かけたけれど、好みに偏っていること自体についてはメディアの記事でもなく学術本でもない著者のエッセイに近い本だからそれでいいんじゃないかと私は思う。


「氷上のドリアン・グレイ」というタイトルにぐっときた人の好みには合ってるんじゃないかな。


ただ、一つだけ好みの問題とはいえ見過ごせないなと思ったのは、ちょっとスケーターのルックスへの言及が多いんじゃないのかな…という点。入口がジョニー・ウィアーなら確かに美男子や美少年スケーターに目が行くのも仕方ないのかなとは思うし、著者はスケートのスポーツ的な面よりもアーティスティックな面が好きなんだろうと思うけど、スケートは演技の美しさを評価するアートであって、けして容姿を評価するアートじゃないので、好みや個人の自由の範囲とはいえ、not for meな書きぶりだった。


でも全体的にはすごく面白かった!高橋、ジュベール、トマシュ、ジョニーを見てた世代のスケオタにはすごくおすすめしたい。