@AZUSACHKA 's note

わたしの感想をわたしが読みたい。

『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち』で読書会を開きました

友人たちと一緒に「フェミニズム読史会(とくしかい)」という名前の読書会を立ち上げました。取り上げたのはSaebouさんこと北村紗衣さんの『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たちーー近世の観劇と読書』です。

 読書会を開いた経緯は、学生時代の友人と「勉強したい」という話になったことからでした。二人とも元々歴史学を学んでおり、卒業後も何度か集まって読書会をしたことはあるのですが、なんとなく生活の忙しさで流れてしまっていました。そこで今度はモチベーションのために目標となるテーマを決めることにしました。

 そんな感じで立ち上げたコンセプトが「フェミニズムをテーマにして歴史を学ぶこと」です。勉強するのは歴史だけど問題意識は今の自分たちに沿ったものがいいな、ということで二人の共通の関心事だったフェミニズムをテーマにしました。テーマがフェミニズム、手段が歴史学、みたいな感じです。(これは余談ですが、友人の専門が米国史、私がヨーロッパ・ロシア史だったので、コンセプトなしに読書会を開くだけだと選書が難しいなと思ったのも理由の一つです。)

 ちなみに「読史会」という名前は、友人と私の出身大学にある某史学研究組織から拝借しました。「フェミニズム読書会」でも良かったのですが、現在のフェミニズムを学ぶだけなら他にいくらでも場所や機会がありますし、何より元史学徒としては「現在の問題を知るためには歴史を知らなければならない」と常々考えているので、「読書会」ではなく「読史会」として立ち上げました。

 

 さて、『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち』を選んだ理由は3点あります。一つには著者の北村紗衣さん自身がフェミニストであり、この本もフェミニズムの視点から研究されていたから。二点目は、最初から運動史や思想史を扱うよりは、もう少し自分たちの普段の生活や趣味に寄り添ってくれるようなテーマのほうがなんとなく読みやすいかなと思ったから。三点目は、読書会をやろうとしている自分たちにとってこの本は「自分たちの歴史」でもあり、自分たちの背中を押してくれるようなパワーのある本だな、と思ったからです。

 

参加してくれた仲間たちからも同様の感想がたくさん出てきました。

  • 子育てをしていると男性主導の社会に自分が置かれていることを強く感じるので、女性の歴史が「なかったこと」にされていたことは「今でも起きていること」だと感じた。
  • 芝居に対する女性の評価は男性よりも甘いというステレオタイプがあり、女性の評価が甘く見られていたのは昔からのことだったというのが印象的だった。
  • 今よりもさらに女性が生きづらい社会において、観劇によって女性が「欲望する主体」になり、さらに読書や観劇といった受動的な行為は積極的な楽しさの追求なのだと著者が言ってくれたことに励まされた。
  • 演劇に関わる人間はみんなシェイクスピアから何かしらの影響を受けている。その正典化のプロセスにおいて女性たちの存在が重要だったことが新鮮だった。
  • 公的な文書や手紙などの「文章」以外のもの、「読む」という行為から歴史を研究していたのが面白かった。
  • ”全ての女性オタクに捧げる本”だと思った

 

 上記以外にもたくさんの感想が出てきたんですが、わたしのまとめ能力&メモ能力の不足により一部だけ簡単にご紹介しました。互いに「わかる〜〜!!!」と共感したくなるような感想がたくさん出てきて、すごく盛り上がったんですよ!読書会というよりなんとなく女子会のような雰囲気で、最終的にたぶん3時間くらいしゃべってました。本の感想だけでなく、誰かの感想から脱線して今のジェンダーの問題になったり、ジェンダーだけでなく民族問題や社会福祉も話題になったり、初対面の人同士なのに同じコミュニティにいたことが分かったり、一つの本から色々なトピックに話が及んだのも楽しかったです。

  時節柄、オンラインでの会議になってしまったので正直うまくいくかどうか不安を抱えながらの開催だったのですが(わたし以外はほぼ全員が初対面でもあったので)、予想以上に盛り上がってものすごく充実した時間になりました。第2回の日程も早々に決まったので楽しみ。

 

以下はおまけ。読書会の話というよりは、自分が読んだときの感想。

 

 「歴史研究は現代の社会や政治に対する問題意識に立脚すべき」というのを私は院生時代に研究していた上原專祿*1から学んだので、そういう意味でこの読書会は単なる勉強会ではなくフェミニズムの名前を掲げることにしました。今はフェミニズムに「第4の波」が来ている*2とも言われていますし、自分と友人の共通の関心でもありました。また、読書会を開くにあたって仲間を探すとき、歴史の勉強に馴染みがなくてもフェミニズムなら関心ある友人知人は多いんじゃないかな、このテーマなら読書会の仲間がたくさん見つかりそうだな、とも考えたからです。

 そういう意味で北村紗衣さんの『シェイクスピア劇を〜』は本当に理想的な本でした。まず「フェミニズムをもっと知りたい」と感じている人にとっては北村さんの名前を知ることがまず勉強になるし、それに「気付かれないまま失われてしまいがちな女性ファンの歴史を回復する(9頁)」などのあたりではっきりと「こういう目標があるのでこの歴史を研究します」と書かれているのがすごく良いなと思ったからです。 

 「どういう目的で歴史を研究するのか」という問題は私がここで簡単に論じられるような話ではないので詳しくは書きませんが、研究者ではない我々一般人が勉強するためのモチベーションにとってはすごく大事なことだと思います。正直、この本はものすごくたくさんの固有名詞が出てくるので、もし序論で北村さんの問題意識がはっきりと提示されていなかったら正直ちょっと読むのが辛い部分もありました…。でも序論があったからこそ、地道な歴史研究が現代の問題を考える上でとても大切なことだと感じながら読み進めることができました。北村さんの問題意識が、本を読むためのエネルギーを私に与えてくれました。(もちろん、本を読むためだけでなく、女性として人生を送る上でのエネルギーも与えてくれました)

 人文系の研究で院にまで行き、読書会を開いた私ですが、実はそんなに本を読むのが得意な方ではありません。私にとっては、色々ある趣味の中で一番エネルギーを使うのが読書です。頑張らなくても楽しめるような類の趣味ではなく、頑張って取り組むほうの趣味です。たぶん筋トレみたいな感じですね。だから一緒に頑張ってくれる仲間がほしくて読書会を作ったし、読むためのエネルギーとして問題意識を持ちたいんだと思います。

 話が逸れました。そういう理屈でこの本を選んだのですが、固有名詞がキツイ…と思いながらも読み進めると、昔のシェイクスピアファンの姿で今のオタクに通じるところがすごくたくさんあってとてもわくわくしました。登場人物の姿に自分を重ねて元気をもらえるのは今も昔も同じなんだな、劇中の人物の名前で呼び合うのはなんとなく今のSNSのアカウント名とかコスネームみたいだな、舞台を見に行けないから本を読むってあるあるだな、など。フェミニズムの視点から問題意識を明確にして著された本ではあるけど、一方でシンプルに歴史の世界を楽しめる本でもあるなと思いました。

 博士論文をベースにした学術書ではありますが、これは全てのオタク女性に捧げる本だと思いました。『さよならミニスカート』という少女漫画が発表されたときに『りぼん』編集部から打ち出された「このまんがに、無関心な女子はいても、無関係な女子はいない」という表現を借りれば「この本に無関係なオタク女性はいない」と言えるんじゃないでしょうか。

 

追記(2021/05/22)

フェミニズム読史会のウェブサイトを作りました。

sites.google.com

azu-mir.hatenablog.com

*1: http://azu-mir.hatenablog.com/entry/2015/01/21/233320

*2:本当に「第4」の波なのか、という話題はさておき