@AZUSACHKA 's note

わたしの感想をわたしが読みたい。

『夢みる教養 - 文系女性のための知的生き方史』感想。とくに人文系の学問を学んできた女性たちへ

小平麻衣子『夢みる教養 - 文系女性のための知的生き方史』(河出書房新社、2016年)
夢みる教養:文系女性のための知的生き方史 (河出ブックス)

夢みる教養:文系女性のための知的生き方史 (河出ブックス)

  • 作者:小平 麻衣子
  • 発売日: 2016/09/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 春から続けているフェミニズム読史会フェミニズムに関係する歴史学の本を読む読書会)で、なにか日本の女性史で面白いものはないかな…と探していたときに図書館でなんとなく手にとった本。

フェミニズム史というよりは抑圧の歴史かも?会のメンバーの好みとはちょっと違うかもな〜と予想しながら読んでみたのだけど、良い意味で予想を裏切られた。タイトルの「夢みる」というかわいい言葉とは裏腹に、読んでいるだけで腹ただしくなってくるほどの抑圧と女性差別の歴史であり、そして作者からのエンパワーメントに満ちた本だった。
タイトルには「文系女性のための」と書いてあるけれど、わたしの個人的な願いをいえば、特に人文系の学問を学んできた女性たちに読んでみてほしい。ただ、これは全ての女性のための歴史だとも思う。
 
ちょっと恥ずかしいけど白状すると、読みながら悔しくて泣き、「おわりに」で筆者の言葉に感動して泣いた。学術書籍で泣いたのはたぶん生まれて初めてだと思う。
 

要約・内容紹介

明治時代から現代にかけての「教養」と「女性」の関係について書かれた本。そもそも日本における「教養」とは旧制高等学校に通うエリートたちが自らの人格や人間力の基礎を高めるために得ようとしたものであり、内容は哲学や文学などの人文系学問を指していた。しかし、女性に求められる「教養」は意味が異なっていた。女性が身につけるべき「教養」は音楽や絵画、文学などとされ、それはつまり「鑑賞されるもの」としての素養であった。女性に「教養」は必要であるけれど、その「教養」は女性たちが職業婦人として自立できるようなレベルのものであってはならないし、もちろん男性のレベルを超えてはならない。時代によって「教養」の意味する内容は変化したものの、女性にとっての「教養」とは常に抑圧とセットのものだった。現代では「女性は文系が向いている/得意」だと言われることも多いが、そのようなラベルが生まれる背景には教養をめぐる抑圧的な構造が大きく関係していた。
 
「女性と長い関係を結んだ人文学の領域は、さまざまな権力関係の分析の対象として興味深いし、そうした関係性のただなかにおかれてきたことで、権力のレトリックを分析するそのスキルこそ、人文系で手に入れられる知性である。」*1
これはフェミニズムの本ではなく(※広い目でみればもちろんフェミニズムのための本なんだけど、フェミニズムの名前を掲げた本ではない、というくらいの意味)女性史の本なのだけど、「おわりに」に筆者からのメッセージが強く込められていた。
これは女性が抑圧されてきた歴史を著した本ではあるけれど、そのような領域(歴史学という人文系の学問=「女性が向いている」と言われがちな分野←それは抑圧)を学んで得られるのが「人文系で手にいられれる知性(=目の前のできごとや制度を批判する力)」である。(私なりの要約)
これすごい熱いメッセージじゃないですか??フェミニストとしてのメッセージだよとはどこにも書いてないけど、すごくフェミニズムっぽいメッセージだなと私は思った。女性の抑圧と切り離せないものなので、その構造は批判しなきゃいけないけれど、同時に抑圧に抵抗するための力にもなるんだ。
ほぼ文系の学部しかない(理系で存在するのは数理学科だけ)という典型的な女子大で人文系の学問(歴史学)を学んでいた私にとっては、私のこと知ってるの??っていうくらい励まされました。そっか、私ちゃんと大事なこと学んでたんだ、みたいな。
 
フェミニズムに関心をもってジェンダー史の本を手にとるようになり、読書会をやるようになったはいいものの、選書は毎回悩ましかった。
どうしても女性史は「抑圧の歴史」になりがちなので、研究ではなく自分の人生のために読むなら”なるべく自分に力を与えてくれるようなもの”がいいなと思っていた。それで、これまでは「抑圧」よりも「抵抗」に着目して本を選んできたのだけど、それだけじゃ本選びがちょっと大変だったし、テーマや感想もかぶりがちだった。
でも、まずは自分たちが置かれている構造を把握しないと、正しく怒ることもできないんだね。
 
文系、なかでも特に人文系の学部を出た女性たちにぜひ読んでみてほしい本です。めちゃくちゃ励まされるから。
「取り上げる女性の多くは、得るべき教養を持って教えてくれる成功者ではない、学ぶ熱意が社会的評価にはつながらず、従って今に名を残さない普通の女性たちである。知らない人の残したしるしを辿ることは、偉人たちの事績よりもむしろよそよそしく感じられるかもしれない。だが、そこには、あなたによく似た彼女がいるはずである。」(「はじめに」より)*2
 

  
以下、細かい部分の感想。読んだことある人向け。

 

  • 川端康成めちゃくちゃ気持ち悪くない??文学界の宮崎駿かよ!!いや宮崎アニメは楽しいけど!!川端康成ノーベル文学賞作家だけど!!それとこれとは別だよ!!「女の子たちの、書いたものって、男とちがってすれてなくて、ピュアで初々しくて、すごく、いいなァ😆👍✨❤おじさん、お仕事で忙しいけど、『新女苑』の読者投稿の選評のお仕事はスッゴク楽しくて、どんなに忙しくても、がんばっちゃうんだ(笑)(笑)💪🌊でも〜、あんまり上手になっちゃうと、正直イマイチだよね^^; 女の子は、あんまり頭良くなりすぎちゃうと、お嫁に行けなくなっちゃうからネ❗❗ナンチャッテ(笑)(笑)」←おじさんLINE構文の表現がぴったり合わない??合いすぎじゃない??キモ!!
  • 大正時代の恋愛事件について触れてる部分が面白くて、次はこのへんをもうちょっと知りたいなって思った。白蓮事件ってあれか!「花子とアン」のあれか!!大正時代、ロシア・ソ連の革命家コロンタイ(ソビエトで国家保護人民員という社会保障担当の大臣に相当する役職に就任したフェミニスト)の小説が流行ってたというのがすごく興味深かった。というのも読書会でそのうちコロンタイをやりたいなと思っていたから。コロンタイがどのように日本で受容されたのかについての本もあるんだね。読書会のメンバーはあんまりロシアソ連史を知らない人が多いので、あんまり自分の趣味に寄せすぎる選書もな〜どうかな〜と思ってた…んだけど大正時代の女性とコロンタイって切り口なら良さそう。
  • あんまり良く知らないんだけど、前から「なんで『教養小説』は『ビルディングスロマン』の訳語になったんだろう」と思ってたんだけど、もしかして昔は「教養=人格形成のために必要なもの」だったからなの??

*1:184頁

*2:12頁