@AZUSACHKA 's note

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『民衆暴力 - 一揆・暴動・虐殺の日本近代』感想 - 読むと逆にモヤモヤする誠実な本

藤野裕子さんという歴史研究者の本をずっと前から読んでみたいと思っていて、中公新書から8月に一般向けの本が発売されたので読んでみた。
民衆暴力―一揆・暴動・虐殺の日本近代 (中公新書)
 

 藤野さんのことは「私と歴史学の不確かな関係」という早稲田大学の紀要に掲載された文章で知った。たしか、これまで早大にいた先生が東女へ行くことになったよ、という話を早大の知人から聞いた際、その知人から教えてもらったものだったと思う。おそらく大学一年生向けの講演か何かの時のスピーチ?を文章にしたもので、すごく読みやすい上にとても熱い文章なのでぜひ読んでみてほしい。

研究者はあまり自分の研究テーマ選びについて「自分の人生にとってどういう意味を持っているか」を語らない人が多い…というイメージを私は持っているんだけど(研究が自分本位のものだと思われる可能性もあるからなのかなあ…分かんないけど…)、でも私は、だからこそ、こういう「研究者が『なぜ自分はこのテーマを選んだのか』について語った文章」にすごくぐっときてしまう。藤野さんに教わったことはないけど、この文章で私は一気にファンになった。
 
話がそれたけど、本著は、その文章でも触れていた日比谷焼き討ち事件や関東大震災について一般向けに書かれている。日比谷焼き討ち事件に参加した男性労働者たちの動機を「男らしさ」という規範から説明したり、関東大震災時の朝鮮人虐殺については国家権力の関わり(単なる「民衆のレイシズム」というだけの問題ではない)に言及していたりと、個人的にタイムリーな視点もたくさんあってとても面白かった。特に朝鮮人虐殺のことは何かの形でちゃんと文章を読んで勉強しなきゃいけないとも思っていたので、この機会に読めて良かった。
 
ただ、誤解を恐れずに言えば、すごく分かりやすいはずの文章なのに、読むと「逆に分からなくなる」というタイプのものだと思う。それはこの本自体が「民衆の暴力」を単純化してはいけない、と述べているから。
貧富の格差の拡大に対して支配者が有効な手立てを打たなかったから起きた一揆もあれば、朝鮮人虐殺は「朝鮮人の命を奪うことが罹災者の支援に繋がる」という義侠心も背景の一つだった、等「暴力」の多様な背景を説明しているので、最終的に「つまり暴力とは…?」みたいになる。だから読むと逆にモヤモヤする。
でもどんな歴史でも簡単に単純に意味を定義できるものなんてなくて、むしろ「〇〇は〜〜だ!」のように言い切る形で述べるようなものは警戒するべきなんだよね。だからこれはすごく誠実な本だなと思った。なんでも分かりやすくすることだけが全てじゃないから。
 
あと、冒頭で藤野さんの「私と歴史学の不確かな関係」を紹介したけど、〈自分自身の動機に基づいて研究すること〉と〈史実に基づいて歴史の本を書くこと〉はけして対立することじゃないんだな、ちゃんと両立するんだな、とも思った。かっこいい。
 
あ、ただ、誤解を与えそうなので最後に付け加えると、本としてはものすごく読みやすいですよ!!私はこういう本を読むときにメモを取りながら読むんですが、とてもメモが取りやすい(大意を読み取りやすい)本でした。おすすめです〜