@AZUSACHKA 's note

わたしの感想をわたしが読みたい。

アレクサンドラ・コロンタイの恋愛レボリューション1917

 

恋もして!仕事して!みんなで恋愛革命!✨\フゥー/✨

 

フェミニズム史を学ぶ読書会を昨年から続けているんですが、そこでロシア・ソ連フェミニストであるアレクサンドラ・コロンタイを取り上げたました。読書会のために調べ始めたら彼女の思想がとてもおもしろかったので、ここでも紹介します。

 

コロンタイ 革命を駆けぬける

コロンタイ 革命を駆けぬける

  • 作者:杉山秀子
  • 発売日: 2017/12/30
  • メディア: 単行本
 

 ja.wikipedia.org

 

コロンタイは帝政ロシア時代に生まれ、革命家になり、ロシア革命後はソ連の国家保護人民委員(社会保障担当の大臣に相当)に就任しました。

離婚の自由化、協会婚から市民婚への移行、夫婦別姓制度、事実婚制度、嫡出子と婚外子の同権などを実現した一方、家事からの解放によって女性が労働者として働けるよう共同住宅(共同の台所があり、清掃は専任の労働者が担当して、託児所や幼稚園も併設される等)を提言するなど、社会主義と女性解放が一体化したマルクス主義フェミニストとして活躍しました。
(しかし、後に彼女はネップ批判などが理由でソ連政治の中枢からは去ることになってしまい、外交官として活躍するようになります)

 

コロンタイの思想の特徴は、女性解放と自由恋愛が一体化した点にあります。
このへんは私もまだちょっとうまく説明できないので、私なりに理解した理屈をざっくり書いてみます。

 

「結婚前に好きな人と性交渉を持つと女性は(親や周りから)嫌な顔をされるのに、同じことを男性がしたとしても、何も言われない。それってダブルスタンダードじゃない?男女で性に関する規範が違いすぎない?」
「女性解放を掲げるなら、女性の自由恋愛だって実現されるべき。適当な相手とするってわけじゃなく、好きな相手としたいだけだよ!」
「その結果、思いがけない妊娠をしたとしても、安心して出産できるならいいでしょ」
「女性の出産はキャリア形成の妨げになるからやっぱり安易な婚前交渉はダメ?そんなのおかしくない?出産してもキャリアを諦める必要のない社会のほうが良くない?」
「え、もし結婚しなかったとして、婚外子は差別されるからダメ?そんなの差別する社会のほうが間違ってる!」
「つまり、女性解放を実現するには、世の中の仕組みを根本的に変える必要がある。だから社会主義革命が必要なんだ!」
社会主義体制のもと、女性が安心して出産・労働できる仕組みを整えていくよ!」

 

つまり、対等な男女として自由恋愛する→子どもを産む(かもしれない)→けど同時にキャリアも積める→経済的に男性を頼りにする必要がないので、女性は男性と対等に恋愛することもできる、男女は平等になる→・・・という感じの理屈なのかな、と私は理解しています。

このように、社会主義フェミニズム、自由恋愛が三位一帯となったのがコロンタイのフェミニズムの特徴といえます。恋も仕事もするのがコロンタイ流!

 

ロシアの2020年ジェンダーギャップ指数ランクは81位。まだまだロシアも家父長制が根強く残る地であるとは思いますが、121位の日本と比べると遙か先の存在です。

例えばロシアの離婚率の高さは世界トップレベルだというのは有名な話かと思います。これ、以前は私も不思議だったんですが、コロンタイの存在を知って、もしかしたら「夫婦はずっと一緒にいるべき」という抑圧からはすでに解放されているから離婚率も高いのかもしれない…と思うようになりました。

(余談ですが、ロシアの結婚は「ザクス」という結婚登録所で手続きをしてパーティをする、という流れが一般的です。これはロシア人から聞いた話なんですが、教会婚を挙げるのは、もっと年月を重ねて「もうこの人以外絶対にありえないな」と確信してからなんだとか。教会婚をしていない=神様の前で誓っていない=あくまでも結婚は書類上のもの=だから離婚するのも別にダメなことじゃない、ってことみたいですね。クリスチャンでもないのに教会婚をして、信じてもないのに神様に誓って、そして離婚する、とかよりは筋の通った価値観だよな〜と思います)


そもそも事実婚とか夫婦別姓制度とか、日本よりも100年以上早い。スターリン時代に結局いろいろ逆戻りしちゃうっぽいけど、それでも早い。すごくない?

 

最後に、私が一番面白いと思ったのはコロンタイの思想の徹底っぷりというか、筋の通ったところです。

ソ連では全員が労働者であるべきなので、彼女は専業主婦(夫に扶養されている妻)は売春婦と同じようなものである…ということも彼女は主張しています。個人的にはちょっと言葉がきつすぎるんじゃないかな…と感じなくもないんですが、それだけ徹底してるんですよね。(ただ、人には人の事情があって、例えば夫が転勤になった等、やむをえず専業主婦にならざるを得なかった人もいるんだから、やっぱり言葉はちょっときついかなと思う。妻が専業主婦にならざるを得ない理由を作ったのは夫の会社であり、本人の怠惰とは違うからね)

また、コロンタイは夫が売春婦を家に連れ込んで浮気をしていたところに遭遇してしまったことがあるらしいんですが、彼女はその売春婦をその場で追い出すわけでもなく、怒るわけでもなく、その売春婦の身の上話を聞いてやり、他の仕事を紹介してあげた上で翌朝送り出してあげたそうです。

コロンタイにとってショックだったのは、夫が浮気をしたことよりも、売春をする女性はだいたいが経済的に苦しい状況であるにもかかわらず、夫がその経済的弱みを利用して金銭によって女性の体を得たことのほうだった。*1

 

このエピソードが個人的には一番好きです。

これ、自分が夫に浮気されてるんですよ?悪いのは浮気したクソ野郎であり、売春婦を責めるのはお門違いなわけですが、でも人間なんだから売春婦に怒ったとしても仕方ないとも思うんですよね。

でもコロンタイはそういう感情よりも、女性の貧困のほうに思いを寄せた。フェミニストだから。超かっこよくないですか?

 

北村紗衣さんはこのコラムの中で「自分の中の『内なる抑圧』と戦う幻を自分の心に住まわせる」という話をしてるんですが、最近わたしの中にはコロンタイが住むようになりました。

 

コロンタイの話、ほかにも色々あるんですが、長くなっちゃうのでとりあえずこのへんで。

 

参考にしたのは以下の本です。

 

フェミニズム史を学ぶ読書会で扱ったのは『コロンタイ 革命を駆けぬける』です。

実は2月に読書会のウェブサイトを作りました。以下のページに本書の案内を掲載しているので、もしよければこちらもご覧ください。

sites.google.com

*1:参考:『令嬢たちのロシア革命』)273頁