@AZUSACHKA 's note

わたしの感想をわたしが読みたい。

ソ連の少女が冨岡義勇みたいな人に出会うフェミニズム小説 - 『同志少女よ、敵を撃て』感想

 

夏に『戦争は女の顔をしていない』を読んだ直後、この作品がアガサ・クリスティー賞を受賞したと知った。その時から発売をずっと楽しみにしてたので、ようやく読めて嬉しい!!

すごく良かったので感想を書きました。

前半にネタバレなし感想、後半にネタバレあり感想です。
 

幸せが壊れるときにはいつも血の匂いがする

 
読み始めて一番最初に感じたこと。
「…これ…鬼滅の刃では…?」
 
物語は、ロシア人の少女・セラフィマの住む村がドイツ兵に襲われるところから始まる。
戦争中ではあったけど、ドイツ語を勉強して外交官になる夢のために大学進学も決まっていた。
そんなセラフィマの生活は、ある日突然やってきたドイツ兵によって一瞬で奪われてしまう。
村の人々や母を殺され、自身もドイツ兵によって暴力を振るわれそうになるが、間一髪で赤軍に救われる。
生きる気力を失ってしまったセラフィマに、赤軍の女性兵士・イリーナが問う。
「戦いたいか、死にたいか」
一度は「死にたい」と願ったセラフィマだが、彼女は立ち上がり、赤軍に入隊して仇討ちを誓う。
 
村の人々がセラフィマ以外みんな殺されてしまったので、赤軍焦土作戦として村を焼き払うことにした。
それに対し「自分の思い出の品を壊すのをやめてくれ」とセラフィマは兵士イリーナに頼むんだけど、イリーナが返した言葉がかなりきつい。
「頼めば相手がやめると思うか。お前はそうやって、ナチにも命乞いしたのか!」
「ドイツに殺された母にも、お前にも、死後の安寧もなければ、尊厳も必要ない!」
(今まさに全てを失った人にそんな言い方しなくても…)
 
一度は死にたいと願ったセラフィマだけど、目の前で自分の思い出が燃やされていくのを目の当たりにしたことで、彼女は生きることを選んだ。女性兵士イリーナとドイツ兵に復讐するために。
 
言ってしまえば、このイリーナはセラフィマの怒りの矛先を自分に向けさせることで、セラフィマに生きる気力を与えたかったんだよね。
 
この構造が『鬼滅の刃』の一話にそっくりだなと思った。
鬼滅の炭治郎も鬼に家族を殺され、唯一生き残った妹・禰豆子も鬼にされてしまう。
そこで出会った鬼殺隊の冨岡義勇によって鬼の禰豆子は殺されそうになるんだけど、やめてくれと願う炭治郎に対して義勇が放ったのがこのセリフ。
生殺与奪の権を他人に握らせるな」
「妹を治す方法は鬼なら知っているかもしれない だが 鬼共がお前の意志や願いを尊重してくれると思うなよ」
「怒れ 許せないという強く純粋な怒りは 手足を動かすための揺るぎない原動力になる」
 
鬼やドイツ兵が自分の意志や願いを尊重してくれるわけがない。
頼んだって聞いてくれるわけがない。
「お願い」なんて無意味。
自分の要求を実現させる(主導権を握る)ためには武器を持つしかない。
復讐という意志を実現させるための武器。
全てを失って生きる気力を失ってしまっても、怒りがあれば立ち上がることができる。
 

少女が怒りを原動力にする物語

 

炭治郎は少年だったけど、セラフィマは少女。
この小説は、「女の子」に「怒り」や「復讐心」を持たせるところから物語が始まるんですよ!!!!!!
これすごくない??わたしすごいツボに入っちゃった…😭
 
女性が戦う動機に「怒り」が採用されるのってすごいことだと思うんだよね。
説明省くけど、女性の怒りってバカにされやすいし、「女性は怒らないで優しく諭すべき」みたいな抑圧もある。
あと、これは私が知らないだけかもだけど、日本のアニメとか漫画だと少女が戦う理由って「世界を救うため」であって「復讐」はあんまりない気がする。(もし少女が戦う動機が「復讐」の物語があったらぜひ教えてほしいです、読みたいです→マシュマロ
だから物語がセラフィマという少女の「怒り」から始まったのが本当に良かった。
ジェンダーロールを壊す物語だよね。すごいわたしの好みだった!
 
他にも細かい部分で色々とフェミニズムを感じさせる内容が盛りだくさんだった。
フェミニズム、ロシア・ソ連史、鬼滅の刃に興味がある人にはおすすめだよ!!
 
関連記事
 

ネタバレあり感想(フェミニズムだなと思った部分について)

  • セラフィマの(復讐以外の)戦う理由として「女性を守るため」(126頁)という言葉が出てきて、想像していた以上に直球のフェミニズム小説だなと思った。
  • アメリカやドイツとは違って)ソ連では女性も兵士になれる。それに対して「結局は、より同質性を強いる思想ではないのか」(109頁)と指摘する箇所。ここ良かった!女性が兵士になれることが「男女平等」だとはわたしも思わないんだよね。それは男性のジェンダーロールに女性を乗せているだけだし、男女ともに不幸になる方向は絶対に男女平等なんかじゃない。男も女も兵士になんかならないのが男女平等だと思う。
  • 新聞記事に「ドイツ人はロシア人の女を犯す」と書かれていたことに対して、セラフィマが「女がロシアの所有物だと言われているようで腹が立つ」(193頁)と独白するシーン。「所有物」という言葉遣いにフェミニズムを感じた。フェミニストが家父長制を表現するときによく使う語彙って感じ。
  • 女性に性的暴力を振るうのは「性的欲求によるものではなく、同調圧力のため」とミハイルが説明するシーン(355頁)も良かった。「戦争という極限状態で子孫を残したいという本能」などの寝言をいう人も世の中にはたくさんいるけど、それは本質じゃないとわたしも思ってるので。
  • 「悲しいけれど、どれほど普遍的と見える倫理も、結局は絶対者から与えられたものではなく、そのときにある種の『社会』を形成する人間が合意により作り上げたものだよ。だから絶対的にしてはならないことがあるわけじゃない。戦争はその現れだ」(356頁)←ミハイルの言葉。こういう「俯瞰的なオレ✨」に酔う男いるよね!!!!!!!冷笑主義っていうの?
  • 戦争にも戦争なりの秩序があるんだよね。わかりやすいのは捕虜の扱いとか、非戦闘員に暴力を振るわないとか。戦争であっても、女性への暴力は犯罪なんだよ。
  • 「なんだかんでイェーガーを見逃す」「復讐は何も生まない」「悪いのは戦争」みたいなラストにならず、ちゃんと復讐してくれて良かった。
  • 繰り返し言うけど、戦争してても犯罪は犯罪だから!!!!!!!!!!

 

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2021/12/4 タイトルをちょっと修正しました。「〜出会う物語」から「〜出会うフェミニズム小説」にしました。

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2022/2/12 友人と読書会をしたので記録。

azu-mir.hatenablog.com