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Unknown Lady's Diary

読書/映画/上原專祿/フィギュアスケート/セーラームーン/ロシア

【映画】ザザ・ウルシャゼ監督「みかんの丘」感想(2013年、エストニア・ジョージア合作) - みかんとシャシリクが繋いだ関係

映画感想

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日本語版のポスターのポエム、ルミネ感がすごい

 

(※前半はネタバレなし、後半にネタバレあり)

舞台は1990年代前半*1ジョージア(グルジア)西部のアブハジア。この地にはエストニアからの移民が100年前から住んでいて、そういったエストニア系移民の人々は戦火を逃れて大部分がエストニアに帰ったのだけど、とある集落ではイヴォとマルゴスという2人の男性が残っていました。イヴォはみかんを栽培していて、マルゴスはみかんの木箱を作っています。そんな二人がある日、戦闘で傷ついた兵士を介抱することになります。一人は、アブハジアを支援するチェチェン兵のアハメド。もう一人は、ジョージア(グルジア)兵のニカです。当然、チェチェン兵のアハメドジョージア兵のニカは互いに衝突するのですが、介抱しているイヴォの仲裁でなんとか上手いことやっていきます。

アブハジアに住むエストニア人、アブハジアを支援するチェチェン人、アブハジアと戦うジョージア人、という複雑な背景を持つ4人が、小さな集落でしばらく共同生活を送り、心を通わせていく話です。

 

わたしは好きな映画でした。フィクションの戦争ではなく現実の戦争の話なので、けして「感動する話」とか「心温まる話」とは言えませんが、希望がもてるような話だと思います。なんていうか、遠くの親戚より近くの他人と言いますが、遠くの"国家"より近くの他人、なんですよね。「戦争や対立を乗り越えて心を通わせる」という基本的なことを、この監督は根気強く言い続けていく姿勢なんだろうなと感じられて、そういうところを好きだなと感じました。「わかりあえるはず」なんて書くと暑苦しくて軽薄な感じになってしまいますが、素人が言葉にすると手垢のついた感じのする話でも、映画にすると良い感じになるんですね。映画っていいなあって思いました。

岩波ホールで11月11日まで上映しています。おすすめ!!

 

最後に、ネタバレにならない見どころを3点だけ。

  • 「木箱に入ったみかん」が出てくるので、チェブラーシカが好きな人は見るとテンション上がるかもしれません。
  • 風景が良かったです。みかん畑、森、ログハウス、という小さな田舎の風景なんだけどなんだかすごく良かった!!
  • シャシリクアブハジアでもそう呼ぶのかは知らないけど、つまりは串焼き肉)が出てきました。本当にそうやってシャシリク食べるんだ!!って思いました。笑


以下、ネタバレ有の感想(箇条書き)です。

  • シャシリクが本当においしそうでしたね。肉そのものは暗くてあんまり見えませんでしたが、夜に外で焚き火してみんなで囲む肉なんて、おいしくないわけないです。あったかいごはんを食べると、心もあったかくなりますよね。食卓は人間関係の基本ですね。囲んでたのはテーブルじゃなくて火ですが。
  • マルゴスがイヴォの家にノックもせず入ってくるあたり、あ~日本の田舎もアブハジアの田舎も同じなんだ~って思いました。わたしの祖母の家にも、近所の人はピンポン鳴らさず入ってくるし、他人の家の台所で勝手に色々やります。そういう田舎がない人は、「あまちゃん」の夏ばっぱの家を想像すると分かりやすいかも。*2
  • 最後にロシア兵がやってきてアハメドジョージア兵だといちゃもんつけて殺そうとするとき、アハメドが「ニカ、援護しろ!」と叫ぶところでぶわ~~~って泣きそうになりました。だって、「ニカは絶対に自分を背中から狙うなんてしない」と分かってる、ってことだから!!
  • 結局イヴォはどうして集落に残ったんだろう。彼はもう高齢だから、残り少ない人生を馴染みある土地で過ごしたかったから?息子の墓があるかな?でも、そんな理由なら、隠すほどのことではないような気がするので、この想像はあんまり正しくないと思う。でも、他人からすると「隠すほどのことではない」と感じるようなことでも、当事者にとってはものすごく重大だってことは当然あるので、単にそういう話なのかもしれない。でも結局、はっきりとしたことは語られていないので、なにもかも想像でしかない。うーん、もしかして、ただマルゴスのことが心配だったから?イヴォはマルゴスのことが好きだったとか、それとも(ただの隣人以上に)息子のように思ってる、とか?
  • ニカがイヴォの孫娘の写真を見つめる理由も、物語の中では「美人だったから」と説明してたけど、本当の理由は何だったんだろう。これも想像でしかないけど、ニカはどこかで彼女に会ったことがある、とか?
  • イヴォは「帰らない理由」だけでなく家族についてもあまり語らなかったのに、最後にアハメドと家族の話をしていた。亡くなってしまったのは息子さんだけのようだけど、もしかしてイヴォは他の家族と何かあったのかもしれない。だからこそ、家族については多くを口にしなかったのかもしれない。全部想像ですけど、仮にそう考えると――ジョージア兵とチェチェン兵にとっては「わかりあえた」きっかけとなる出来事だったけど、イヴォにとっては「自分のことを語ってもいいと思える」きっかけとなる出来事となったんですね。自分の過去の悲しい出来事を他人に語るのってものすごくエネルギーを使うんですよね…Twitterやブログで不特定多数の人に向かって「わかるやつだけわかればいい」ってスタンスで語るのと、「この人は分かってくれるだろうか」とびくびくしながら語るのとでは、使うエネルギーが全然ちがいます。でも、イヴォは「家族のことを話してもいい(まだ断片的でしかないけど)」と思うことができたんですね。マルゴスは死んでしまい、集落に残ってしまったのはイヴォ一人になってしまったけど、イヴォは本当の意味では一人じゃなくなりました。

 

*1:91年、グルジアが独立を宣言→92年、アブハジア自治政府グルジアの軍事衝突→94年に停戦合意、なので92~94年のうちのいつか

*2:ただし、一緒に見た友人からは「単に集落には2人しかいなかったからじゃない?」と言われたのですが、でも普段の習慣として「他人の家に入るときは訪いを告げる」ことをしてる人たちが、二人きりになったからといってその習慣を失くすものかなあ、とわたしは思うのです。