『同志少女よ、敵を撃て』の作者の2作目。ナチズム下のドイツに実在した『エーデルヴァイス海賊団』を描いた小説(※登場人物はおそらく創作)。
前作がとても好きだったので、発売直後に迷わず購入!
でもなかなか読めなくて今になってしまった。
とても面白かったー!
どうだった?って人に聞かれたら、面白かったよっていろんな人におすすめできると思います。
なんていえばいいのかな…『同志少女よ、敵を撃て』ほどの衝撃はなかった、というのが正直なところではあるんだけど、それはこの『海賊』がダメだったというわけじゃなく、『同志少女』で作者のスタンスはある程度把握していたから『海賊』では驚かなかった…という感じかなあ。安心して読めたというのが第一印象。
『同志少女』は「第二次世界大戦時代のソ連の女性スナイパーの話」というストーリーだけ先に知っている状態でおそるおそる読んでみて、蓋を開けてみたら(きっとそうなんじゃないかとは思っていたけどやっぱり)フェミニズム小説だった…という衝撃があったんだけど、そういう作者のスタンスが2作目で急に変わるわけないからね。だから安心して読めた!
でも前作では「匂わせ」されていたようなテーマが今作でははっきり描かれてたのはおおって思った!(ネタバレになるから中身は書かないけど、わたしの『同志少女』感想から察してほしい笑)
作者は今後もずっと歴史小説縛りで作品を発表していくのかな?歴史小説好きなのでわたしは嬉しい。3作目も楽しみだな~と思える内容でした。
※以下ネタバレ有り感想(箇条書き)
- 「政治的に生きたいわけじゃないけど、自分らしくありたいって思って生きようとすると、 ナチと戦うしかなくなる(190頁)」という言葉が特に印象に残った。
- 「もし戦争が終わってる。俺は、その現場で働いた。あの場所への道のりを舗装して給金を得た。それによって得た食料を食べて、今吐き出している。許せないのは、その全てだ。(169頁)」「すなわち虐待と強制労働の現場への中継地点として開通した鉄道と、そこで囚人に対して拷問に匹敵する苦役を負わせ、軍靴メーカーとして成長し雇用を生んだ靴産業こそが、戦後においてる市を発展に導いたわけであるが、…(344頁)」等の部分。これは最近感想をあげた『アイヌもやもや』の方でも書いたけど、テッサ・モーリス・スズキさんが「連累」という言葉で説明してるんだよね。現代を生きるわたしたちにショアー(ホロコースト)の責任があるわけではないけれど、でもわたしたちの現代の生活はショアー(ホロコースト)によって生まれた利益(虐殺されたユダヤ人の犠牲)の上に成り立っている。自分たちが悪いわけじゃないけど、自分の意志と関係なく、生まれながらにしてそういうふうになっている。ショアー(ホロコースト)のことをそういう視点で受け止めた小説だったのが本作なので、そういうところがすごく良かったなと思った。
- 冒頭で学校の先生が宿題で戦争についてのレポートを書かせるやつ、「生徒の身内が戦争を直接知らない世代になっている」は日本でもあるよな~と思った。10年くらい前、実は社会科の非常勤講師の仕事をしてたことがあるんだけど、その頃もすでにあったな…。
- 登場時は「トルコ系移民の息子」としか紹介されなかったデミレルはクルド人だった。なんとなくクルド人は日本に来てるイメージしかなかったんだけど、そっか、そりゃドイツにも行くことあるよね。最近わたしはクルド人のことも知りたくて本読んだりクルド音楽のコンサートに行ったりしてて関心があるので、このデミレルくんのエピソードは印象に残った。