@AZUSACHKA 's note

わたしの感想をわたしが読みたい。

「もやもやする」を言語化する - 『アイヌもやもや』感想

 

12月に発売された本。金カム読史会の仲間が「こんな本が出るみたいだよ」と教えてくれたので読んだ。きっとこの本はなるべく早めに読んで感想をあげて広めなきゃいけない本だろう…という予感があったので、他の積読から目を背けつつ読んだ。

とっても良い本でした!!!!!!!!!!

これ、おすすめします。ぜひ読んでほしいです。

アイヌの文化や歴史に関心ある人だけでなく、レイシズムに問題意識を持っている人やフェミニストにも読んでほしい。(※なぜフェミニストにも、なのかは後述)

アイヌ差別だけでなく、レイシズムに問題意識を持つうえで大事なポイントがこの本に詰まっている。しかもそれを平易な言葉で説明してくれているんですよ。

今年発売された『トランスジェンダー入門』という本の帯に「最初に知ってほしいこと」という言葉が書かれていたけれど、この『アイヌモヤモヤ』にもそれが詰まっているのかなーと何か通じるものを感じました。

 

平易な言葉だけど踏み込んだ内容

例えば、作中ではテッサ・モーリス・スズキさんの「連累(※)」という言葉の説明を紹介していた。これは「自分自身は土地を収奪したり虐殺したり、他者を迫害しなかったかもしれないけれど、過去にそういうことが行われて発生した利益のもとに自分は生きている」という意味の言葉。

現代の人々の多くは、明治時代から戦前に進められた占領に直接関与したわけではないというのはその通りです。一方、今の日本国が形作られる時期の和民族が、支配や占領から多くの利益を得た、言い換えれば数代前の人が得た利益は特権が、マジョリティの優位性となって存続していることも事実です。(p140)

日本に住んでいる人で、北海道産の食べ物を食べたことがない人は絶対いないでしょ。例えばあなたが口にしているその北海道産じゃがいも使用のポテトチップスは、北海道を植民地としてプランテーションを作ったから得られたものなんですよ、って話。

自分自身がなにかしたわけじゃなくても、自分が生まれながらにして抱えている責任が人間にはあるんだよね。キリスト教でいえば「原罪」なのかな?わたしはこの考え方を知ったことで、自分のマジョリティ性(シスジェンダー&北海道出身の和人&健康)をすんなり受け入れることができた。

これすっごく大事な考え方なんだけど…でも、たぶんだけど、これまではテッサ・モーリス・スズキさんの本を読んだことのある人にしか届いていなかったんじゃないかなーと思うんだよね。絶対なんて言いきれないし証明できないので、あくまでも「たぶん」なんだけど…。その重要さの割にあまり一般的に広まってはいない言葉、って印象。

でも、この本には載っていた。おそらく「アイヌ差別についてまだあまりよく知らない人」が読むと想定して書かれた本に。それがすごく意義深いと思う!!

「もやもや」という優しいタイトルとマンガ入りという形式が「初学者向けなのかな」という印象を持たせるけれど(実際その通り平易な言葉で書かれているけれど)、ここからわかる通り、内容はかなり踏み込んでいる。「初学者向けの言葉でここまで書いている」本。

金カム読史会を始めたとき(2022年初夏)にこの本があったら、わたしはきっとここから勉強を始めてただろうな~。(金カムが終わったあのタイミングでこの本がほしかった…と思うようなことも色々あった)

※「連累」はこの本だと「連塁」になっていたのですが、わたしは「連累」表記の方がなじみあるので「累」と書きました。意図があってのあえての「塁」でしたら申し訳ありません。

 

フェミニストが書いた『アイヌもやもや』

他に良いなと思ったのは、著者の北原モコットゥナㇱさんがフェミニストだということ。マンガを描いている田房永子さんがそうだし、北村紗衣さんの『お嬢さんと嘘と男たちのデス・ロード ジェンダー・フェミニズム批評入門』も参照していたし、女性差別に言及した箇所がいくつもあった。北原さん自身、「近代アイヌ社会のミソジニー・ジャイノフィリア」という研究ノートを書いている。

例えば「他の問題についてはめちゃくちゃ良いこと言ってるのに女性差別の話になると急にバグる人」っているじゃないですか。この本はそういう部分がないのが良かった!!そのおかげで「ジェンダーの面では物足りない部分もあるけど」という前置きをせずに「良い本だよ」とすすめることができる。

日本のマジョリティを「身体壮健異性愛和人男性(略して”SIWD”)」と名付けてたの良かった。SIWDわたしも真似して使いたいな…

フェミニズムに関連して

作中で、Safe Campusという団体が「セクハラ・性暴力被害を積極的に止める第三者(アクティブバイスタンダー)」であることを表明するバッジを作っていると紹介されていた。それについて、北原さんは「アイヌ差別に介入する」と表明するバッジがあったとしたら「多くのアイヌが、内心泣かんばかりに安心するように思います」(p162)と書いていた。

あーこれいいな!って思った!わたしはバッジを付ける習慣がないから、キーホルダーとかステッカーを作ってみようかな。

 

問題には名前が要る—”公正世界信念”

この本を読んで初めて知り、一番衝撃だった部分は「公正世界信念」という概念。

ちょっと長いけど以下引用します。

「この社会には問題がある」というニュースは、受け手に「何も対処しないのか」と問いかけるメッセージを含んでいます。問題を知らされること自体をプレッシャーに感じる人もいるでしょう。メッセージを受け取り、何か問題に対して行動しようと考えたとしても、自分のことだけで毎日いろいろあって、そうそう何かを始めることはできません。何もできないまま問題が放置されてしまう、その無力感はストレスになります。それを避ける反応の1つとして「それほどの問題はないのだろう」とか「被害者の方に問題があるんじゃないか」等と考えることがあるのです。 人々は自然な心の動きによって、自分の暮らす社会を正しいものとして見ようとします。こうした見方は「公正世界信念」と言われます。(p14-15)

ここ!!!!これ、世の中のいろんなことに当てはまるよね!?

「この世界は正しいものだ」と思いたい。だから「今は差別なんてない」なんて言うし、「強制的夫婦同姓でも問題ない」って思うし、「今の与党の自民党に投票するのが正解」ってなる。

わーこれかー!ってなった。めちゃくちゃ勉強になった。

「問題には名前が要る」というのはこの本に出てきた言葉なんだけど(p69)、「公正世界信念」もその一つだなって思った。

調べたらWikipediaの記事も出てきたからたぶん有名な言葉なんだろうけど、わたしはこの本で初めて出会った。出会えてよかった!!!!!!!!!

 

わたしのもやもや

(本の感想からはちょっと離れるので読み飛ばしても大丈夫です)

これは本に対してではなく、この本を読んでいて「そういえばわたしももやもやしてたことがあった…」と思い出したことなんですが。

「自分は本州出身だからアイヌ差別とは無縁だ」という言葉に対して、作中で「アイヌが暮らしているのは北海道である、差別は個人の間で意識的に行われる行為だという前提が感じられる」「経済的に苦しく、地元を離れて北海道へ入植していった和民族に対する、和民族同士の偏見があるのかもしれません。」と説明されていた部分(p141)。

これを読んで、フィギュアスケートアイスダンスの村元・高橋組の「ソーラン節」に「もやもや」してたのを思い出した。

ソーラン節を使うだけならいいんだけど、高橋大輔が「和をテーマにしたプログラム」「日本の伝統曲でもあるソーラン節」と公式サイトで説明していたんだよね。わたしはなんとなくそれがイヤだったの。

もちろん北海道の「和」人の音楽なんだから「和」でも間違ってないんだけどさ…

北海道の和人は、帝国主義の論理である「包摂と排除」の「包摂」の一員でもあるけど、同時に「排除」された部分でもあるわけじゃないですか。例えばニシン漁で儲けた人も確かにいたけど(例:ニシン御殿)、ニシン漁で働いていた労働者は大抵貧しい階級の人だった。アイヌも和人も。

そういう「排除」された立場でもある人々の歌を「和」として「包摂」するのは、ちょっとおかしくない?「ソーラン節を踊るところまでは全く構わないけど…なにも「和」って言わなくてもいいじゃん!!しかも「日本の」伝統曲ってさー。もー!

…と、子ども時代に学校でソーラン節を踊っていた元・北海道の人間としては思いました。

(あのプログラムはかっこよかったし、かなだい大好きだけどね!)

というわけで、北原さんの「北海道へ入植した和民族に対する和民族同士の偏見」という説明を読んで、あーやっぱりあるよね…と思ったんだ。

高橋大輔が北海道を差別したわけじゃないし、もちろん見下したわけでもないけど、「暴言を吐いてるわけじゃないけどその言葉にはもやもやする」ということはあるんだよね。この本でずっと説明されていた通り。

(繰り返し言うけどわたしはかなだいも高橋大輔も大好きです)*1

 

感想は以上で終わり。最後はアイヌじゃなく自分の話になっちゃってごめんなさい。

とにかくおすすめだからみんな読んでね!!!!!!!!!

熱くおすすめします!!

 

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azu-mir.hatenablog.com

*1:蛇足だけど、わたしがロシアに興味を持ったきっかけは高橋大輔ラフマニノフを使っていたことだったりします。2023年の世界選手権のオペラ座の怪人も現地にいたよ!それくらい思い入れある人です