プッシー・ライオットのメンバーの一人、マリア・アリョーヒナ(以下、マーシャ)の獄中記。アマゾンレビューの「ロシアは獄中記の名産地」という言葉に興味がわいて読んでみた。
プッシー・ライオットについては「そんな団体が話題になったことあったな」程度の認識。この団体の思想やの運動内容については全く知らない状態で読んだ。
特に印象に残ったのは以下の2点。
①ロシア正教会と政治(プーチン)の癒着
そもそもなんでマーシャが投獄されたのかというと、モスクワの救世主ハリストス大聖堂の商業主義やロシア正教の総主教と政治(プーチン)の癒着を批判するため、救世主ハリストス大聖堂でエレキギターを使った40秒間(たったそれだけ!)の抗議活動を実施したから。
マーシャが説明する、救世主ハリストス大聖堂の「商業主義」の内容は以下の通り。*1
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運営しているのは教会ではなく財団法人
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その法人のメンバーの一人は内務省の役人、かつモスクワの警察本部長
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ここではお土産品(高価なイースターエッグなど)が販売されている(でも宗教施設だから税金を払っていない)
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大聖堂はイベントホールとしても利用できる(そのために照明機材や音響機材をレンタルできる)
ロシア観光の際の訪問場所として聖堂や教会堂はメジャーな場所だと思うんだけど、そういう場所が商業主義だと批判されていることに、ロシアを観光したことがある自分自身もちょっと身につまされた。救世主ハリストス大聖堂に行ったことはないんだけど、プッシー・ライオットが批判しているのはこの聖堂だけではなく正教会でもあるので。観光で宗教施設を訪れることについてちょっと悩んでしまった。
②獄中での抗議活動
マーシャは①の抗議運動で投獄されたんだけど、なんと刑務所に入ってからもずっと抗議を続けていた。
抗議内容は、女子刑務所における理不尽に対して。例えば、ロシアなので当然刑務所は寒いんだけど、防寒用の衣類が支給されなかったり、刑務所の壁がボロボロで隙間があるので受刑者がパンを詰めて隙間風を防いだりしている。刑務所内での労働に対して正当な賃金が支払われていない、など。マーシャ自身、刑務所内での態度に対して違法な懲罰を受けていた。
こうした理不尽を受け入れず、彼女は獄中でも抵抗を続けた。上記のような実態を人権擁護団体やマスメディアに訴えかけたり、自分自身が受けた違法な懲罰を訴えて裁判を起こし、その裁判に勝利した。
ここまで徹底的に抗議を続けるなんてすごくかっこいい。けして面白おかしく抗議運動をしてるわけじゃなく、信念を持って抗議をしているんだ、というのもよく分かった。抗議で逮捕されたのに獄中でも抗議してるんだよ!?
特に、抗議活動に対する以下の言葉がとても印象に残った。
つまりマーシャは「仮に抗議によって要求が達成されなかったとしても、抗議すること自体が権利なのだ」と言ってるんだよね。こんな視点なかったので面白かった。
もう一つ印象に残ったのが、他の受刑者と一緒に抗議ポスターを持って刑務所内で抗議をしたときの言葉。ちょっと面白い感じのポスターを作成したらしく、そのポスターを見た他の受刑者たちが気に入って、笑いを取ったらしい。
「抗議というのは、こうあるべきなんだーー絶望的で、突発的で、そして楽しいもの。」*3
確かにプッシー・ライオットの抗議運動って、過激だけどSNS映えするイメージがある。「バイト先の冷蔵庫に入った写真をSNSにあげたら炎上した」とはちょっと違うけど、なんかちょっとそういう炎上にも通じるというか。抗議運動そのものを楽しいと思えたら、抗議をすることへのハードルも下がるよね。
プッシー・ライオット、過激な抗議運動のイメージしか持っていなかったので、この獄中記はとても面白かった。
そういえばサフラジェットも獄中でハンストしてたけど、このマーシャもしょっちゅうハンストしてた。いつか自分が無実の罪で投獄された(?)ときのため「ハンストという抗議方法がある」というのはよく覚えておこうと思う。
抗議は抗議する権利のためにある、抗議は楽しいものである、一人でもできる抗議にはハンストがある。プッシー・ライオットによる抗議ハウツー本みたいな内容だった。