@AZUSACHKA 's note

わたしの感想をわたしが読みたい。

成瀬はまわりを照らしていく - 『成瀬は天下を取りに行く』『成瀬は信じた道をいく』感想

 

 

 

久々の読書感想。読書会に誘ってもらえて読んだ。自分ではあまり選ばない感じの小説だったんだけど、読んでみたらすごく面白かった!こういう感じで本と出会えるのって嬉しい。わたしは本を読むのにとても時間がかかる方なんだけど、これは一瞬で読めた。ネタバレ有りで2冊分の感想を書いていきます。

 

『成瀬は天下を取りに行く』

コロナ禍の2020年を思い出した

2020年8月に閉店した西武大津店の最後の一か月間を見届けると決意して、地元のローカル局西武百貨店の中継に毎日映り込むことを目標にした主人公、成瀬あかり。

2023年に出版された小説だけど舞台は2020年。コロナ禍の日本ってこんな感じだったな…という描写が随所にあったのが印象的だった。

わたしは大人なのでコロナ禍でそんなに大きく人生が変わることはなかった(と思う、たぶん)けど、子どもや若い人たちはきっと本当に大変だったよね。

そんな中でも「できることをしよう」とする成瀬の光属性っぷりがとてもまぶしかった。

コロナ禍の苦しさだけでなく、2020年当時の文化?風俗?が描かれてるのも面白かった。例えば「緑と黒の市松模様のマスク」とか!確かに当時は鬼滅の刃が流行ってたし、不織布マスクの流通が止まっててたこともあって布マスク使われてたよね~。

コロナとは関係ないけど「高校から競技かるたを始めるにあたって春休みに『ちはやふる』を読む」とかも「あるある!」となった。

わたしは文学史に詳しくないので、どういう小説が名作として時代を超えて読み継がれるのかは分からないけど、こういう作品が「コロナ禍の空気を伝える作品」の一つとして100、200年先も参照されるかもしれないなーとなんとなく思った。この時代の空気を知らないと理解できないポイントがたくさんあるんだけど、それはそれで「そういうポイントの解説」とともに残るというか。

成瀬と島崎はBosom Frined

これは『天下』と『信じた道』の両方に共通する感想なんだけど、わたしは成瀬と島崎の関係性がとっても好きだった。「自分は成瀬にとって特別なポジションだ」と認識する島崎。島崎が膳所から引っ越すことにショックを受ける成瀬。こういう「親友という言葉では物足りない」と感じてしまうくらいのクソデカ感情が横たわっている関係性が…わたしは…好き!恋愛ではなくあくまでも友情のカテゴリではあるんだけど、友情というにはあまりにも大きすぎる感情が物語で描かれてると…わたしはとても好き…!笑

最近「虎に翼」を視聴してて初めて知った言葉なんだけど、Bosom Frinedという言葉があるんだね。『赤毛のアン』で「腹心の友」と翻訳された、女同士の親友を指す言葉。

成瀬と島崎もBosom Frinedと言っていい関係性かなーと思った!

 

『成瀬は信じた道をいく』

1冊目は「ふう~面白かった!」というテンションで読み終えたんだけど2冊目のこちらは色々な点が刺さりすぎてしまった。めちゃ良かった。

何になるかより、何をやるかのほうが大事

成瀬のこの言葉がすごく私に刺さった。

今までブログにはっきりと書いたことはなかったけど、私の属性は「一般職の独身30代女性。自分は「仕事に打ち込んでるわけではない」うえに「”妻”や”母”というアイデンティティもない」人間なので、実はそういう「何物でもない」自分になんとなくずっとコンプレックスを抱いていた。

※かといって今から総合職でキャリアを積みなおそうという気力はない。笑 基本的に労働が嫌いだし、そもそも長時間労働に耐えられる体力がないし、自分の心身を守るため8割くらいの力で余裕をもって働きたい人間なので…

でも、そんな私でも、趣味や勉強など「やりたいこと」だけはけっこうたくさんある。読書会も好きだし、フェミニズムアイヌ・北海道史ももっとたくさん勉強したい。(ブログにはほぼ何も書いてないけど)ファイターズ(野球)やフィギュアスケートも大好き!わたしの属性ではなく中身を見てくれる友人だったら、わたしがこういうコンプレックスを抱えているなんて想像もつかない可能性すらあると思う。

わたしは何者でもないけれど、たぶんわたしの中身はとても豊かなはずだ。もちろん世の中にはわたしよりもっと豊かな中身の人はたくさんいるだろうけど、わたしという人間のキャパシティには十分な量だ。

さすがにわたしは成瀬ほどの大物ではないけれど笑、成瀬の「何をやるかのほうが大事」という言葉のおかげで、なんとなくそういう自分のことを少しだけ肯定してあげられる気持ちになった。

何物にもなれないわたしだけど、やってることだけはたくさんあるぞ!って胸を張って生きていける人間になりたいな。

「まわりを明るく照らす」人間、成瀬あかり

成瀬の名前「あかり」は「まわりを明るく照らす子になれるように」という願いを込めてつけられた。本当にその通りの人だなーと思った!『天下を~』との違いは「成瀬に救われた人」の話が中心になってるところなのかな。

特に、篠原かれんさんのエピソードが一番刺さった。顔の良い男と結婚して女の子を産んで観光大使に仕立て上げることを目標とする人生。しんどい。それに、「わたしにとって、みんなの前では表の篠原かれんでいるほうが楽だから。」という言葉を読んで泣けてしまった。

これ、すごいわかるんだよね。

わたしも素の自分でいるよりパブリックイメージを保てるよう努力するほうが精神的に楽。最近おしゃべりした相手から「プライドが高い」と指摘されたんだけど本当にその通りだと自分でも思う。(プライドの高い人間だからこそ、そのプライドに見合う人間になるため努力もするし、悪いことばかりじゃないはずではあるけど…。実際、篠原さんもパブリックイメージを守るために努力をしてるわけだし。)

だから篠原さんが最後に撮り鉄としての自分を表に出せていたのが本当に良かった。自分事のように嬉しかった!

島崎が「よっぽど観光大使の仕事に燃えているのだろう」と篠原さんを捉えていたのも良かった。そうなんだよね、自分が思っているほど人は他人に関心ないんだよね。良い意味で。

クレーマーの呉間言実さんのエピソードも良かったな~。

最近Y2K新書というラジオを聴いてるんだけど、その中で柚木麻子さんが「人は変えられないし、変えてはいけない。それでも変えたい人がいるなら、まず自分の仲間(同じようなことを考えてる人)を増やす。人を変えるのはルールではなくムードだから、変えたい人の周りのムードを変える。自分の仲間(山賊)によって」という主旨のことを述べていて、それを思い出した。(詳しくは「リスナーよ、山賊になれ」回を聴いてください笑)

呉間さんは成瀬が作ったムードのおかげでちょっと変われたんだよね。

「成瀬あかり」の「あかり」は「灯り」なのかな。灯台のような、みんなの道しるべになれる人!

上でも書いたけど、実際に成瀬はわたしの道しるべにもなってくれたし。

 

あー楽しかった。もちろん『天下』も面白かったけど、特に『信じた道』が自分に刺さりすぎた。自分では選ばなかったであろう本が自分に刺さると、自分で選んだ本が自分に刺さったときよりもなんか嬉しい。自分の世界が広がったような気がする。

 

この本を選んで読書会に誘ってくれた人に感謝を込めて!

 

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追記

そういえば、成瀬「あかり」という名前と「みんなの道しるべになれる人」という自分の感想で、わたしは『らんたん』を思い出した。

azu-mir.hatenablog.com

学園創立から90年近くたった今日でも、第1回の卒業生を送り出したときから変わらずにつづいている伝統があります。暗闇の中で、灯りのともされた学燈(ランターン)が、卒業生から在学生へ手渡される「学燈ゆずり」――その後、卒業生は学燈から分け与えられた灯をともしたろうそくを手に、「光よ」を歌いながら退場していきます。ちいさな灯は、世の中に旅立つ卒業生が、どのような場所であってもそこを照らす存在であることのシンボルです。

河井道 | 恵泉女学園 SPECIAL CONTENT より引用