@AZUSACHKA 's note

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通りすがりの相手と背中を預け合うシスターフッド - 柚木麻子『らんたん』感想

鴻巣友季子さんによる紹介記事を通して知り、シスターフッド小説ということで興味を持ったので読んだ。すばらしいシスターフッドの物語だった!!!!すっごく面白かった〜〜
 
河井道と渡辺ゆりはシスターフッドの関係にある。もともと二人は教師と教え子の関係だったのだけど、二人は同志として人生をともにするようになる。YMCAで活動するかたわら、渡辺ゆりは一色乕児と結婚するが、ゆりは道とシスターフッドの契りを結んでいるので、道・ゆり・乕児の3人で生活することになる。そして、道とゆりの二人は恵泉女学園を設立する。
 
以下、物語の核心に触れるネタバレはないはずだけど、内容には触れるのでネタバレ一切ダメな人は読まないで下さい。
 

 

1.歴史上の有名人がこれでもかというほど出てくる

面白かったところ1点目は、歴史上の有名人がたくさん出てきて「これ進○ゼミで習ったところだ!!」状態になるところ。
ざっと思い返しただけでも、新渡戸稲造有島武郎野口英世、津田梅子、山川菊栄平塚らいてう等。「あれとこれが繋がって、そして現代に繋がるのね…」という歴史小説の醍醐味をたくさん感じられた。途中からは「〇〇まで出てきたー!!笑」って感じで読んでた。笑 明治〜昭和にかけての日本史を、河井道・渡辺(一色)ゆりの目線を通して体験できる。
作者の柚木麻子さんのトークショー(2022/3/8)によると、河井道の人間関係についてはほぼ史実らしい。彼女自身はそこまで有名でもないけれど、色んな有名人の回顧録などに登場するのだとのこと。Amazonのレビューを見ると、そういう小説の作りが口に合わなかった人もいるみたいだけど、わたしはその部分こそがすごく面白かった。個人的に、明治〜昭和の思想史ってあんまり詳しくないので(私は専門家じゃないのでどの地域のどの時代でも基本的には詳しくないんだけど…それはともかく)、小説を通して色んな人の思想を比較しながら知ることができて楽しかった。
 

2.女たちは一枚岩じゃないけど、必要なときには背中を守り合ってともに戦える

2点目はやっぱりシスターフッドの部分!!
道とゆりの強い絆はもちろんだけど、彼女たちみたいに「強い絆で結ばれた」わけじゃない女性たちがともに手を取り合えると描かれていたのがとても好きだった。
例えば、現代から見たら批判できる点があるフェミニストもたくさん出てくる。
そもそも河井道やゆりも(当時の多くの教育者がそうであったように)天皇制教育に(社会主義者ほどには)抵抗できたわけじゃなかった。選挙権獲得のため戦争協力した市川房枝も出てくる。津田梅子は、「女性差別を解消するには、リーダーシップを発揮できる女性を育てる」として「女性差別を解消するには世の中を変えるべき」という方向には行かなかった(女性差別解消のため女性を変えようとした)。
また、津田梅子は作中で「どんなに今が楽しくても、女同士の関係は永遠じゃないわ。結婚や恋愛で終わってしまうのよ。」*1ともこぼす。フェミニストたちはけして清廉潔白な歴史を残してないし、一枚岩でもなかった。
 
でも、この小説はそのせいで対立したり戦争したりする描写はない。あっても作中で仲直りしてる!
作中の津田梅子は「女同士の関係は永遠じゃない」と言ったけれど、「立場や考えが異なる相手とも、必要なときには手を取り合える」と描いているのがこの小説なんだと思う。
実際、津田梅子が意見を違えて疎遠になってしまった友人との友情を復活させられるシーンがあったり、村岡花子と白蓮の仲違いと仲直りにも触れたりしている。また、社会主義フェミニスト山川菊栄から道・ゆりは批判されてしまうけれど、でも道・ゆりがとある活動のため菊栄に協力を願い出たり、菊栄が彼女たちを認めるシーンもあったりする。
 
一番高まったシーンは、道がたまたま廃娼運動デモに遭遇した際、デモの参加者女性がガラの悪いに絡まれてしまい、そこに助太刀で介入したところ。*2絡んできた男に抗議した女性に力を貸すため、道は女性と背中合わせになって構えの姿勢をとり、襲いかかってきた男たちを合気道(これは新渡戸稲造から習った技)で撥ね飛ばした。「初対面の相手に助太刀するため背中合わせで戦う」というシーンがあまりにもかっこよすぎて大好きだった。
 
女性は互いに意見が合わないこともあり、けして一枚岩ではない。間違えることもある。なぜなら女性も人間だから。でも必要なときに背中を預け合ってともに戦う同志になれる!そんなシスターフッドの物語だった。
 
トークショーで柚木麻子さんが「もし実写化するなら、これまでのドラマでその人を演じてきた人がこの作品でも演じてほしい(※細かい表現うろ覚え)」と話してたんだけど、わたしもそう思う!広岡浅子は波瑠、津田梅子は広瀬すず村岡花子吉高由里子など。テレビ局の垣根を超えて実現してほしいな〜!
 

3.細かいところの感想(箇条書き)ネタバレ注意

  • 現在の北星学園女子(札幌)の前身となったスミス女学校の一期生が道で、その学校を創立したサラ・C・スミスはライラックの苗木を初めて日本に持ち込んだ人だった。へぇー!!札幌市の花はライラックなので、ここすごく面白かった。
  • 徳冨蘆花「女が死ぬ物語が名作」*3ここすごいむかつく!!!!!!最近も『余命10年』って映画が公開されてるけど、あれも女が死ぬ物語だよね。
  • 野口英世は道を好きになった。道の勇敢なところを好きになってくれる人が現れたー!!!と沸き立ったのに、英世はお金のために婚約して留学先で他の女を見つけるクソ野郎だった。*4は?むかつく!!
  • 一番好きなキャラは山川菊栄だった。山川菊栄、あまりにも思想が洗練(?)されすぎてて、理想が高いよお…とも感じなくはないけど、でもそこがいいよね。
    • 「イエス様のありがたいお説教をかますんじゃなく、相手の話を聞くことが肝心」と批判*5
    • 伊藤野枝による「矯風会の廃娼運動は偽善的なエゴ。娼婦は男性にとって必要な存在」に対して「どうして娼婦を買う側の意識は変えられないと諦めて男の側に立つのか」*6と批判
    • 戦時中は戦争協力に疑問を抱かない教育者を批判*7
    • 道・ゆりのいうシスターフッドも結局はキリスト教の家父長制の延長線上にあるものではと批判*8
    • ↑こんな感じ。み、耳が痛い…。。。…でも、自分が全部真似することはできないけど、徹底した思想の人って憧れる。
  • ↑で山川菊栄が批判した内容はそのとおりだと思うけど、一方でゆりによる「キリスト教こそが女性を縛る家父長制だけど、明治時代から、神の名のもとに女性たちは安心して集う場を得て、欧米の文化にアクセスし、知識を分け合うことができた。だから、ゆりは道に会えたのだ」という答え*9も本当にそうだなと思う。わたし自身、キリスト教にもとづく女子大の出身なので、本当にそうだなーってすごくよく分かる。

 

 

*1:140頁

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