@AZUSACHKA 's note

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【読書】町田樹の「ティムシェル」を理解したくて、6年越しで『エデンの東』を読み始めてみた(4/4)

 

 

町田樹を思い出しながら読む『エデンの東』、ついに最終巻。
率直な感想としては「え…ここで終わり…?」だった。キャルはあの後どういう「選択」をするの?結局罪に打ち勝つことができたの??アブラはどうなるの?リーは??最終巻で一気に話が動いてあっという間に終わってしまったような感じ。この小説って続編ないんだよね??登場人物がその後どうなったのか教えてよ~~!!
すごく面白かったけど、ラストがあっという間だったことだけが不満。もうちょっとさぁ!!後日談とか!!余韻とか!!ねぇ!!!

 

町田樹のいうとおり、確かに「ティムシェル」は物語の根幹の概念だった。小説を通じて表現されているのは「カインとアベルの物語」ではなく「カインがティムシェルできる物語」だったのは分かった。でも想像していたほど「ティムシェル」そのものが描かれたわけじゃなかった。「ティムシェル」の意味は教えてくれたけど、実際にどうティムシェルするのかは教えてくれなかった。

物語を最後まで読み切る前に、文庫版に掲載されていた解説を読んだのがいけなかったのかな…それとも町田樹によってあらかじめ物語のテーマがティムシェルであると明かされていたのがいけなかったのかな…もしかしたら、ティムシェルが大事な言葉だってことを知らずに読んでいたら少し違う感想を持っていたのかもしれない。

 

とにかくアロンとキャルの兄弟がかわいそうすぎて…。アロンは愛され男子だったけど自分から父の愛を求めようとはしなかったから結局愛を受け取ることはなかったし、キャルだって父から愛されていたけど本人はそのことに気付かなかった。キャルは「アロンのほうが父(アダム)から愛されていた」と思っていたけど、アダムが明確に二人を差別している描写はなかったよね?アロンの大学進学を喜んではいたけど、そりゃ頑張って勉強した子を褒めるのは当然のことであって、それがキャルを愛していないということにはならないと思うんだけど。でもキャルには愛が伝わっていないんだから、それはキャルにとっては愛されていないのと同じだよね。だから現金なんてものを父親にプレゼントしようとしたんだけど…それはだめだよ…。おじいちゃんが孫にお小遣いあげるんじゃないんだから。。

 

でもトラスク家の物語を読むと「カインとアベルの物語」の神様の理不尽っぷりもなんとなく理解できた。カインの捧げもの(作物)を神様が拒否した明確な理由は聖書で述べられていないけど、きっとキャルが戦争を利用した先物取引で儲けたお金を父にプレゼントしたのと同じくらい罪深いことだったんだろうね。アベルは少ない稼ぎの中から頑張って羊の子を捧げたのかもしれないし、カインは「今年は豊作だったからご近所さんに配ろう」くらいのテンションで作物を捧げたのかもしれない。もしかしたら誰かをだまして手に入れた畑だったのかも?神様がカインの捧げものを喜ばず、その理由も本人に教えてあげなかったのは、「自分で考えなさい」という教育的メッセージだったのかもしれない。神様は古い価値観の人だから、そういうタイプの教育しかできなかったのかもしれない。そう考えると神様ってなんていうか人間っぽいよね。神様が人間に似てるんじゃなくて、人間が神様に似てる(「神は自らに似せて人をつくった」だから)んだけど。笑

 

そう考えるとアダムもひどいよね。死にかけだったから仕方ないけど、キャルがあまりにもかわいそうだったから、ティムシェルよりも「愛してる」って伝えてあげてほしかったな…

ラストがあまりにもあっという間だったこともあって、ちょっとまだ物語を呑み込めていないところがあるんだけど、すごく面白い小説だったので最後だけがちょっと納得いってない。もうちょっとゆっくりティムシェルを堪能したかったな~これだと第三巻でリーがティムシェルの意味を研究するところの方が詳しかった。


あとは他の登場人物について。

 

リー

彼は最後まで最高だった。私はリーが好きだ!!
アロンの大学進学後、アブラがリーのことを父親よりも好きになった、という部分で「分かる~~~~!!!!!」となった。わたしもリーが好き!!!!「郵便切手の糊だけでつながった間柄ほど悲しいものはありませんし、見も聞こえも触れ合えもしないなら、いっそ忘れてしまったほうがいいのかもしれません」という最高に切ない名言を残しておきながらあっさり帰ってきてしまうあたりがとても愛おしい。ていうかサリーナスでトラスク一家と一緒に暮らしながら本屋を開けばよくない?

 

アブラとケイトについて

アブラの悩みは作中でそれほど深堀りされたわけじゃないけど、自分の父は娘ではなく息子がほしかったらしいと彼女が考えていること、父親よりもリーの方が好きと感じていることあたりから、アブラはアブラでしんどいものをたくさん抱えていそうだな…と思った。アロンとの関係についても、「彼は自分に架空の清純な女の皮(母の幻想)を被せている、その幻想をひっくり返すとアロンは自分を好きでなくなるかもしれない」と考えていたんだよね。このへんがすごくしんどいんだけど、「それでも私は自分自身でありたい」と選択したアブラの人生をもう少し長く見守りたかったな。もしかしたら彼女はキャルと一緒に人生を歩むかもしれないけれど、彼女は彼女で自分の人生をつかんでほしいな。

エデンの東』は聖書の「カインとアベルの物語」をなぞらえるように展開され、「アベル=アダム=アロン」「カイン=チャールズ=キャル」という風に兄弟が対比されるわけだけど、そう考えると「ケイト=アブラ」と結ぶこともできるんだね。アブラが「それでも私は自分自身でありたい」と言ったように、ケイトがアダムのもとから逃げたのも「自分を縛ろうとしたから」だったし。ケイトは最初からサイコパス感があったのであんまり好きなキャラじゃなかったんだけど、彼女も「自分自身でいる」ために模索し続けた人だったんだと分かったら同じ女性として少し親しみが湧いた。

 

自分用メモ 町田樹の「エデンの東」について

https://victorysportsnews.com/articles/4757/original