@AZUSACHKA 's note

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【読書】三浦綾子『続 氷点(上下巻)』(角川書店、文庫版初版:昭和57年発行)感想

 

 続編の感想。『氷点』についてはこちら

 

三浦綾子『氷点』の続編、『続・氷点』を読んだ。『氷点』で「ここで終わるの!?」と思ったので、続編が存在しててくれて良かった。
「原罪」がテーマだった『氷点』と違い、今度は「罪のゆるし」がテーマ。でも、自分自身の読解力の問題なのか、不勉強の表れなのか、それとも「罪のゆるし」というテーマに出会うべき自分の人生のタイミングが違うからなのかは分からないけど、最後まで読んでも「罪のゆるし」についてはちょっとピンと来なかった。

「人間が他人の罪を裁くことはできない」というところまでは分かる。「あなたがたの中で、罪のない者が、まずこの女に石を投げつけるがよい」というイエスの言葉の通りだと思う。例えば、陽子を自殺に追い込んだ夏枝の罪を啓造が裁くことはできないよね。そもそも啓造が陽子を引き取ったんだし。じゃあ陽子なら夏枝にゆるしを与えられるのか?といえばそれも違う。陽子が自殺未遂をしたことで傷ついたのは陽子だけじゃない(徹や啓造だって傷ついた)んだから、陽子がゆるせばそれで済むというわけではない。それに、何もかも正しい人間なんていないのだから、他人の罪を裁くことなんてできない。

でも、だからといって「神様なら裁くこともできるしゆるしを与えることもできる」とはわたしにはまだ考えられなかった。神様の存在が唐突に感じた。

 

あとはそれぞれの人物について箇条書きで感想。

 夏枝について

『氷点』を読み終えた時点ではまさか夏枝がここまで落ち着くなんて思わなかった。夏枝が陽子に謝ることができて本当に良かった。夏枝は辻口一家の中で一番弱い人間だったと思うんだけど、夏枝を見ていると、神様は弱い人間のそばにいるというのは本当なのかもしれないと思えてくる。陽子も「自分がこの世で最も罪深いと心から感じられた時、不思議な安らかさを与えられる(下巻、380頁)」と言ってたし。最近「無償の愛は親から子への愛ではなく子から親への愛」という考え方を知ったんだけど、夏枝は陽子に許されて、陽子から無償の愛を受け取ったんじゃないかな。
ただ、けっきょく啓造との仲は最後までこじれていたようにも思うけど、お互いに責めるのはお互いに嫉妬しているからなのかなという気もするので、死ぬまでケンカしながら一緒にいればいいんじゃないかな…

 

啓造・徹・北原と「愛」について

「愛は感情ではなく意志的なもの」「自分の一番大事なもの(命)を他にあげるのが真の愛」と啓造はまとめていた。

特に啓造が行動によって愛を実践するシーンは無かったけれど、おそらく愛について言葉で説明する役割を作中において担っていたのが啓造で、実践したのは徹と北原ということになるんだろうな。命をlifeと考えるとlifeは生活とか人生でもあるので、命を他人にあげるというのは、救命具を他人に譲った宣教師のように自分の命を犠牲にすることだけが愛じゃないんだよね。北原は陽子を守るために危険を冒して、徹は陽子の秘密を知っても陽子をずっと大切にしていたし、自分の恋を犠牲にしてでも陽子に幸せになってほしくて北原を陽子に紹介した。二人とも心から陽子を愛していたよね。

だから陽子が最後に北原を選んだ理由が感情による愛ではなく意志による愛だったのはすごく良かったと思う。徹よりも北原のほうが陽子のために失ったものが大きくなってしまったから、陽子は北原に応えるべきだと考えたんだよね。もし陽子が感情によって「どちらかのほうが好きだ」と気付いて選んでいたら、選ばれなかった方にとってはすごく残酷だし、ここまでの愛を注いでくれたのに不誠実だよね…。陽子が理性的な主人公だったおかげで最後の選択には納得できた。

 

陽子について

陽子が子どもの頃から「正しい」人間であろうとしたのは「自分さえ正しければ胸をはって生きていける強い人間でいられる」と思っていたから。でも終盤で彼女は「相手より自分が正しいとするとき、果して人間はあたたかな思いやりを持てるものだろうか。自分を正しいと思うことによって、いつしか人を見下げる冷たさが、心の中に育ってきたのではないか。(下巻、375頁)」と結論付けた。陽子が冷たくて他人を見下げる人間だとは思わないけれど、強くなるために正しくなろうとする→自分は正しいので他人を見下すようになる、というのはすごくよくわかるなと思った。正直わたしは陽子みたいなタイプなので、この部分は耳が痛かった…。
でも陽子が正しい人間であろうとしたのだって元を辿れば夏枝による虐待のせいなんだから、そんなに反省しなくたっていいのにな…。キリスト教文学だからこういう結論になるんだとは分かってるけど、陽子は真面目すぎて現代ならうつ病になっちゃうんじゃないか。


『氷点』の感想はこれで終わり。旅行がきっかけで三浦綾子文学を読んでみたんだけど、一人の作者の作品をこうやって連続で読むのも面白いね。キリスト教文学ってジャンルがあるのも初めて知った。読んでみて良かった。

 

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