@AZUSACHKA 's note

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女子学生よ、大志を抱け - ウルフ『自分ひとりの部屋』感想

「タイトルだけで要点を伝えられる本」というのがあると思う。例えば『差別はたいてい悪意のない人がする』など。ウルフの『自分ひとりの部屋』も、そういう本だと思っていた。読む前は。

でも読んでみたら、「女性には自分ひとりの部屋が必要」という話ではなく「女性が本を書くなど芸術活動に取り組むためには年収500ポンドと自分ひとりの部屋が必要」という話だった。

 

 

この本を読む前、頭に浮かんでいたのは、現代日本の住宅販売においてイメージされている「お父さんには書斎、お母さんには充実したキッチンや水回りを」というステレオタイプな家庭像への批判。お父さんだって家事をするし、書斎がほしいのはお母さんも同じ。特に女性は、家庭内にプライベートな空間が必要ないと思われがち。だけど本当は必要なんだよ。

『自分ひとりの部屋』も勝手にそういう内容なのかなと想像していた。

でもちょっと違った。

「女性が本を書くなど芸術活動に取り組むためには年収500ポンドと自分ひとりの部屋が必要」という話が、この本の主旨だった。

知的自由はつねに物資的なものに支えられています。詩は常に知的自由に支えられています。そして女性はこれまでつねに貧乏でした――ここ二百年どころではなく、有史以来の長きにわたって。女性に与えられてきた知的自由は、アテネの奴隷の息子にも劣ります。だとすれば、 女性には詩を書くチャンスが露ほどもないということになります。 だからこそ、わたしはお金と自分ひとりの部屋が欠かせないと強調してきました。(186-187頁)

 

そもそも、この本は1928年にケンブリッジ大学の2つのカレッジ(ニューナムとガートン)で行った、女子学生向けの講演会での原稿をもとにしている。つまり、女性の中でも上流の、エリート層の女性にかける励ましの言葉になっているのだ。それは作中のこのあたりに表れている。

一八六六年以降、イングランドには女性のためのカレッジが少なくとも二つ、開設されています。一八八〇年以降、既婚女性は財産所有権を法律で認められるようになりました。 そして一九一九年にはちょうど九年前にあたります――女性は投票権を与えられたのでほなかったでしょうか? また、専門職の多くが女性に開かれてからおよそ十年が経過して います。これらの多大な特権がすでに得られ、享受できるようになってからそれなりの年月も経ち、現在では二千人くらいの女性がさまざまな方法で年収五百ポンドを得ているという事実を考えれば、チャンスがなかったとか、訓練を受けていない、励ましが得られない、時間やお金がないなどという言いわけがもう有効ではないのもおわかりになるでしょう。(194-195頁)

「今は時代が違うんだから(あなたたちは恵まれてるんだから)甘えるな」みたいな感じ?ここ読んでほんとにびっくりしちゃった!笑

まあでもエリート層の女性に向けた励ましの言葉だと考えたら、まあこんなものなのかな〜。

 

ただ、ブログという誰かに読んでもらうことを前提としてる文章だと、どうしても一番印象に残ったところを強調して書いてしまうけど、全体的には女性差別の現状や歴史を文学的表現も混じえながら説明するような内容になっていたのでとても面白かった。

  • オックスブリッジを訪問して食事をごちそうされたけど、男たちの飲み物はワインで、女たちは水だったという経験(←ど直球差別すぎる)
  • もしシェイクスピアに彼と同じくらいの才能を持つ妹がいたら?という話(←切なかった)
  • 「女性ではない」ということ以外なんの資格もないような男が「女性」というテーマについて語ること(←今でもあるあるすぎて)
  • 男は自分に自信をつけさせるため女の「劣性」を強調する(←これもあるあるわかる)

…等々の話はすごく面白かった!!

 

それだけに、最後の最後にまとめとして着陸したのがこういう励ましの仕方でびっくりしてしまったんだよね。えーーーここまで良いこと言ってたのになんでーーーーー!?!?っていう笑

(そういう時代だから、では終わらせられないと思うんだよね…イギリスにもシルビア・パンクハーストみたいな人はすでにいたわけだし…)

 

おわり。

この本は読書会もしたので議事録まとめました。

こっちも読んでもらえると嬉しいです!

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