@AZUSACHKA 's note

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漫画『鬼滅の刃』感想 - 連帯して理不尽に立ち向かう物語

世間の波に乗り遅れること数ヶ月。最近ようやく映画『鬼滅の刃』(無限列車編)を観て、勢いそのままに最終巻まで読み切った。あまりにも有名な漫画なのでストーリーは割愛する。

 

鬼滅の刃 23 (ジャンプコミックスDIGITAL)

鬼滅の刃 23 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

 

※以下、決定的なネタバレは書いていないつもりですが、物語の根幹について触れています。絶対にネタバレを読みたくない!という方はご遠慮ください。

 

 

 

個人的に一番のポイントだと感じたのは、物語の終盤で敵が指摘する「鬼に身内を殺されても大抵の人間は自然災害と同じように受け止めて乗り越えるのに、鬼殺隊は立ち向かってくる。なぜなら異常者の集まりだから」という内容。

少し話は逸れるけど、「日本人は戦争を自然災害と同じように受け止め、乗り越えてしまったのではないか」という指摘を学生時代に大学の授業で習ったことがある。確かに、戦争もののフィクション(ドラマ等)って、戦闘描写に比べ「空襲」や「食糧不足」などの描写の方が多いイメージがある(例:「この世界の片隅に」等)。「加害」を描いたフィクションも存在するんだろうけど、すぐには思い浮かばないし、たぶんあんまり多くない(と思う*1)。これは政治に対しても同じで、つまり世の中の理不尽(戦争)を自然災害と同じように乗り越えてしまう心性を持っているのが日本人なんじゃないか。たしか授業ではそんな風に説明していた。

これは『鬼滅の刃』における「鬼」の存在についても同様だと思う。『鬼滅』の鬼にとって人間は単なる食料であり、鬼は「人間を支配しよう」とか「世界征服しよう」とか考えてるわけじゃない。そもそも『鬼滅』における一般人にとって、鬼の存在はカッパとか人魚とかのレベルでしか認知されてない。だから、(これは予想だけど)おそらく大抵の人間は鬼に遭遇しても「復讐しよう」なんて思わないし、ましてや「身内が殺された」等の強い動機がないのに「鬼殺隊に入ろう」なんて考えないんだと思う。鬼によって理不尽がはびこっていたとしても。

でも、鬼殺隊はそうじゃない。「自然災害と同じ/仕方ない」と受け止めてしまわず、理不尽(鬼)に抵抗していた。ここが個人的にはすごく良いなと感じたポイントだった。鬼殺隊と鬼の戦いがあくまでも私闘だって位置づけなのも良かったな。自分や大切な人のために戦ったっていいよね。

 

ちょっと風呂敷広げすぎかもしれないけど、これって最近話題の「わきまえない」等にも通じてると思うんだよね。わたしもわきまえず生きていきたい。理不尽には抵抗していきたい。

 

一方、物語全体に流れるテーマとしては「託された思いを繋いでいく」*2なのかなと思う。
主人公・竈門炭治郎や鬼殺隊のみんなは、周囲の人間からたくさんの思いを託されて進んでいく。とある主要キャラ*3による「人の想いは永遠」という言葉があって、ストーリー全体を通じてそのテーマが繰り返し語られていた。

例えば、強い鬼が相手のとき鬼殺隊は絶対に複数名で戦っていた。ラスボスを倒す方法も「主人公がパワーアップして倒す」のではなく「みんなで力を合わせて倒す」方式だった。

腕を切ってもすぐに再生しちゃうような相手(鬼)と生身の人間が戦う、ってめちゃくちゃ理不尽だよね*4。理不尽と戦うには一人の力じゃ無理だから、みんなで力を合わせる。一人の人間にできることは限られているけど、みんなの力を合わせればどんなに強い相手でも勝てる。いわゆる連帯だよね。

言葉にするとあまりにもストレートすぎて恥ずかしくなっちゃうテーマだけど、それをこんなにおもしろく描いているのが『鬼滅』なのかなと思った。

 

あんまりテンション上げない文体で書いてるつもりなんだけど、3月に無限列車編(映画)を観て、直後にコミックス全巻そろえて、何周か読んだところで感想を書いてる。この1ヶ月半ほどはずっと鬼滅に夢中だった。これだけ少年漫画を読み耽ったのなんて久しぶりだったから楽しかった。

 

少年漫画のアニメって、自分が子どもの頃に見ていた記憶(※10〜20年ほど昔)だと、どうしても「漫画の劣化版」ってイメージが強かった。昔のアニメ化って、例えば漫画では繊細な絵柄なのにアニメだと大ざっぱになってしまったり、アニメが原作に追いついてしまってオリジナルの展開になったりしてたじゃない?でも『鬼滅』を観て、今のアニメ化ってこんなにすごいんだ!ってびっくりした。漫画では描かれていない部分を補足したり、逆に「ここは特に見せたい」という部分に時間をかけたりして、漫画を読んでても楽しめるようになってた。すごいアニメだった。

遊郭編も楽しみ!!!!

 

 

以下はがっつりネタバレ有りの細かい感想(読んだ人向け)です。

 

 

 

竈門炭治郎

  • 漫画の主人公としては史上トップレベルに”良い子”なのでは…!?(※私見です)っていうくらい良い子の炭治郎くん。
  • 優しいというよりは良い子。ほんとに良い子。ちょっと空気読めないとこはあるけど、性格が良いから押し通せてる感じ。
  • 鬼殺隊員の遺書には炭治郎と禰豆子の幸せを願う言葉も多かったらしいけど、禰豆子が打倒鬼舞辻無惨のカギになったというだけでなく、二人がとても良い子だからたくさんの人にかわいがられてたんだろうなと思った。
  • 「俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった」については「俺は長男なんだから我慢できるはずだ(だから俺がんばれ)」の言い換えで、自分が我慢できるように唱えたおまじないなのかなと思った。あまりに痛くて混乱してたんだろうね。

竈門禰豆子

  • 見た目もかわいい。強くてかっこいい。
  • 彼女は鬼になっても人間を食わなかった。きっと炭治郎(長男)同様、禰豆子ちゃんも長女としてそれまで色んなことを我慢してきた人生だったんだろうな…なおかつ元から気も強かったんだろうな…
  • アニメで初めて見たときは「…女の子が『言葉を発せない』状態になってる…」とモヤモヤしてたんだけど、鬼になった状態の彼女を肯定しないようにするための要素としてそうしたのかな、と後から思い直した。鬼になった禰豆子ちゃんがしゃべれたら、強くて人間を襲わなくて自我も失ってなくて意思疎通もできて…ってあれ?急いで人間に戻す必要ある…?ってなるよね…

我妻善逸

  • なんか人気投票では一番人気らしいんだけど、禰豆子ちゃんや女性キャラへの態度が気持ち悪くて私はあんまり好きじゃなかった。
  • アニメじゃなく漫画から入った人だと印象違うのかな?アニメだとちょっとうるさかった…

嘴平伊之助

  • 煉獄さんが彼を最後まで「猪頭少年!」と呼んでいたので、無限列車編以降は私も脳内で「猪頭伊之助」と呼ぶようになってしまった。
  • 炭治郎や善逸と出会った当初は「コミュニケーション成立してないし大丈夫…?」と心配になってしまうキャラだったけど、無限列車編からは良い感じにコミュニケーション取ってて、なんだか人間らしくなってた。
  • 鬼になった炭治郎を倒そうとする場面で「斬れねえ だめだ炭治郎 できねえ」って泣くところで号泣した。
  • 最後、まさかのアオイちゃんと結ばれてた。一体なにが!!!!!!!

冨岡義勇

  • 寡黙であまり自分の考えてることを言わなかったけれど、炭治郎との「義勇さんは錆兎から託されたものを、繋いでいかないんですか?」以降、義勇さんがだんだん表情豊かになっていったのが印象的だった。
  • 登場シーンはあんなに熱かったのにね。あの時は炭治郎に発破かけるために頑張って大声出したんだろうな。いとおしいな
  • 無惨との戦いで炭治郎(左腕を失った)と義勇さん(右腕を失った)が一緒に刀を支えるところ/鬼殺隊解散を告げる産屋敷輝利哉くんの屋敷で不死川さんとほほえみ合うところ(あんな仲悪かったのに打ち解けてる!)で涙が止まらなかった。

煉獄杏寿郎

  • 煉獄さぁぁぁぁぁあぁん!!!!!!!!!!!(号泣)
  • 大きくて強い人だった(嗚咽)
  • 多くの人と同様、私も映画を観て鬼滅に落ちた人間なので、全ては煉獄さんから始まりました。
  • 煉獄さんの「心を燃やせ」は、その後ずっと炭治郎の心に火を灯していたよね。この言葉が好きすぎて、フェミニズム読史会に載せたこの文章のタイトルで密かにオマージュしました。恥ずかしながら。実は。
  • 映画、実は2回見たんです。1回目は普通ので、2回目でドルビーアトモスっていうなんか音とか色とかがきれいになってるやつ。ドルビーアトモスは煉獄さんの炎の呼吸の色が鮮やかですごかった。

宇髄天元

  • 中身が好きなのは煉獄さんだけど、見た目が好きなのは宇髄さんでした。派手の神最高!!!!私はフィギュアスケートが好きなんだけど、スケートの衣装でもビジューギラギラの派手衣装が好きなので、宇髄さんの派手っぷりも大好き。
  • 恵まれた体格なのも良き〜
  • 最初の印象はアレだったけど、一度自分が認めたらその後は常にニッコニコの笑顔で炭治郎に接してたのも良かった。第一印象とのギャップがたまらない。基本的には面倒見の良い人なんだろうな。蝶屋敷で人さらいしかけた時には妻のことで焦ってたんだろうね。
  • 妻が3人もできるわけだよね。しかも3人の妻が仲良くて【(宇髄さん+妻1人)×3組】じゃなく【宇髄さん+妻3人=4人家族】って感じなのも良い。
  • 「嫁」呼ばわりはちょっと…と思うけど、まあ時代的には「嫁」でも合ってるので仕方ないよね…

甘露寺蜜璃

  • 甘露寺さんはセーラームーンに似てるなと思った。「泣き虫」「でも強い」「かわいい」「明るい笑顔」あたりの性格が似てる。「刀鍛冶の里」編での「みんな私が守ってみせるからね」という言葉も、映画版セーラームーンRでのうさぎちゃんの台詞「みんなはあたしが守ってみせる!」を思い出した。
  • 女性としては一番身近なキャラだなと思った。コンプレックスがあって、婚活もうまくいかなくて、自信が持てなかった。でも鬼殺隊に入ったらありのままの自分を受け入れてもらえて、長所を活かして人の役に立つことができた。「柱」たちの過去で一番感情移入して読んだ。
  • 鬼殺隊入隊の理由が「結婚相手を探すため」なの、ハイスペに出会うために自分もハイスペになったタイプの女性なんだなと認識した。
  • 胸元が半分見えてる隊服は直してあげてほしかったな。本人も嫌がってたので…

伊黒さん

  • 甘露寺さんがセーラームーンに似てるなと思ったのには、伊黒さんの存在もあった。思いが通じ合うものの現世で結ばれることはなく、生まれ変わって一緒になることができた…って完全にプリンセスセレニティとプリンスエンディミオン😭月の光に導かれて何度も巡り合うんだね😭
  • 底抜けに明るい甘露寺さんに出会って伊黒さんが救われた、ってあたりも映画セーラームーンRのストーリーに似てる

継国縁壱

  • 日の呼吸について:縁壱が亡くなり、日の呼吸を教わっていた剣士も無残に殺された。偶然、炭吉一家に日の呼吸を見せていたため、その型は神楽として残ることになった。結果、縁壱さんの思いも受け継がれていった。てことなのかな?
  • 母からもらった耳飾りを炭吉(炭治郎の祖先)にあげたのは、アシタカがカヤからもらった黒曜石の小刀と同じで、大切な人にあげられるものは自分が大切な人からもらったものだけだから、てことなのかなあ

鬼舞辻無惨

  • 『鬼滅』って基本的に「最初は嫌なやつだと思っても、敵であっても、相手には相手の事情がある」というのをずっと続けているんだけど、鬼舞辻無惨だけは徹底的に最後まで悪いやつだったのが良かった。それでこそ悪役。部下に対してもパワハラひどかったしね。
  • 「私に殺されることは大災に遭ったのと同じだと思え」←いや天変地異に復讐しようと思う人間はいないけど、自然は同時に恵みも与えてくれるじゃん、鬼はなんにもしてくれないじゃん。炭治郎と同じ「お前何を言ってるんだ?」ってなった。

 

まだまだ言い足りないんだけど、あとは基本的に「ここで泣いた😭」って話ばっかりになりそうなのでこのへんで。

*1:あったら見てみたいので教えてほしい

*2:例:炭治郎が煉獄さんから託されたもの、義勇さんが錆兎から託されたもの 等

*3:鬼殺隊の産屋敷さん

*4:映画で炭治郎も叫んでたよね